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医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第73回 新型コロナの情報――伝え手に求められること

2021年12月06日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

新型コロナウイルスに関する情報は、”インフォデミック”と呼ばれるほど真偽含めて大量に入り乱れている。情報の伝え手側は、何に気を付けて発信しなければならないのか? 『ネット炎上の研究』著者・山口真一国際大学GLOCOM准教授に訊く。全3回の後編。

新型コロナウイルス感染症をめぐっては、さまざまな情報が大量に氾濫しています。「われわれは感染症だけではなく、インフォデミックとも戦っている」(WHOテドロス事務局長)のです。このような中で、情報の伝え手側に求められるのは何なのでしょうか?

すべての報道・情報発信にいえることですが、とくに新型コロナウイルスのように命にかかわるテーマについては、「いかに正確に発信するか」、「それをどうやって効果的に伝えるか」というふたつのポイントがあると思います。計量経済学というデータ分析手法によってネットメディアなどを研究されている経済学者の山口真一先生に、正確で効果的な情報発信法について伺いました。

山口真一(やまぐち・しんいち)

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論、情報社会のビジネス等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award貢献賞、組織学会高宮賞、情報通信学会論文賞(2回)、電気通信普及財団賞、紀伊國屋じんぶん大賞を受賞。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)などがある。他に、東京大学客員連携研究員、早稲田大学兼任講師、日本リスクコミュニケーション協会理事、シエンプレ株式会社顧問、総務省・厚労省の検討会委員などを務める。

讃井 情報の正確性については、まさに本連載を始めた動機のひとつです。コロナ禍において、既存のマスメディアの報道が正確でない場合があります。私の実体験でいえば、新型コロナ感染症に関してテレビ・新聞の取材を受けてきたこの1年半、記者やディレクターの頭の中にストーリーがあって、それに沿った話をしてほしいという意図がみえみえだったことがしばしばありました。私の発言が一部切り取られ、あらかじめ決めていたストーリーにあてはめて使われ、結果的に誤解を招きかねない報道の片棒を担いでしまったケースもありました。だからこそ、既存のマスメディアを通さずに情報発信をしようと、本連載を始めたわけです。

山口 私にも同じような経験があります。ストーリーに沿ったコメントを取り、ひどい場合は編集して逆の意味に使うという傾向は、特にテレビで強いように思います。

 時間に追われて制作しているという面もあるのかもしれませんが、今や速報性ではテレビよりもネットのほうが優っている時代です。そこでテレビに求められているのは、もっとクオリティーを意識した番組作りのはずです。丁寧な取材であり、さまざまな視点を見せることなのではないでしょうか。今までのような制作者の頭の中を反映するような番組作り・記事作りがネットの一部でマスゴミと揶揄されるようにマスメディアへの不信感につながっていることを、彼ら自身が気づかなければいけないと思います。 讃井 さらに厳しい言い方をすれば、メディア関係者の勉強不足も感じます。もちろん医師や科学者と同じレベルを要求しているわけではありあせんが、せめて基礎的な知識についてはもう少し取材前に勉強してきてほしいと思うことがしばしばあります。

 同時にメディアのサイエンスリテラシーも高めてもらいたいと思います。医学研究は、結果を患者に適用できるか否かによって、動物実験からヒトを対象とする大規模ランダム化比較試験まで、いくつかの段階に分けられます(55参照)。また、一つの研究を取り上げても、論文として医学雑誌に投稿され掲載されるまで、レビュアー(査読者)から指摘・批判を受け、仮説や研究方法が妥当か、得られた結果が信頼できるか、研究者の恣意が入り込んでいないかがチェックされます。しかし、メディアの報道の中には、動物実験や、早期の臨床研究段階に過ぎない治療薬、あるいは論文化すらされていない仮説や発見を取り上げ、視聴者に、あたかもそれが特効薬・救世主のように感じさせてしまうものがあります。一方、科学的に見れば治療の害はその効果に比べて遥かに小さいのに、その取り上げ方により、害が非常に大きいと感じさせてしまう報道もあると思います。ワクチンデマには、このようなメディアの報道姿勢も関与しているのではないでしょうか。

山口 科学的なプロセスの認識まで一般の人に求めるのは酷でしょう。報じられた内容が曲解したものであったりミスリーディングさせる情報であっても、視聴者・読者がそのまま参考にしてしまうのは無理からぬことです。だからこそ、少なくとも報じる側は科学的なプロセスを理解するなどサイエンスリテラシーを高めて、一人の研究者の仮説やプレプリント(査読前論文)を科学的合意形成された頑健な結果と同列に扱わないようにする必要があると思います。

讃井 では、正確な情報を効果的に伝えるためにはどうすればいいのでしょうか。マスメディア以外にもSNSなどさまざまなメディアがありますが、どのメディアを使えばいいというのはあるのでしょうか。

山口 かつては情報収集はマスメディアからするものでしたが、今の時代はそれ以外の選択肢が出てきました。劇的に変化したように見えますが、情報収集形態が多様になったというのが正確なところです。ですから、その多様な情報収集形態に合わせた発信が求められていると思います。

 若い世代をターゲットに考えるなら、マスメディアだけでは届きにくくなっています。若い世代は新聞はもちろんテレビもほとんど見なくなっているからです。実際、選挙前に何を見て情報収集したかを学生に尋ねたところ、候補者のアカウントだという回答がかなりあったんです。彼らに情報を届けるためには、ソーシャルメディアを有効活用する必要があるでしょう。

 日本において、ソーシャルメディアの中で利用率が高いのはTwitterです。しかもTwitterは情報収集ツールとして利用している人が非常に多いという特徴があります。友達との交流にも使っていますが、それだけではなく、たとえばファッションの店舗アカウントをフォローしておいて、そこの情報を収集するといった使い方がされているんです。ですから、ワクチン接種推進担当大臣だった河野太郎さんのようにTwitterを上手に活用すれば、情報発信でも良い効果が期待できると思います。 讃井 Twitter以外にもFacebookなどさまざまなソーシャルメディアがあります。夏には、分科会の尾身茂会長がInstagramを始めて話題になりました。情報発信力が強いのはどのソーシャルメディアなのでしょうか?

山口 Facebookは日本では利用率が低く、かつユーザーの年齢層も比較的高いことがわかっています。利用目的も、友達同士の交流やビジネスの交流がメインになっているので、情報発信力は弱いと考えられます。

 Twitterに次いで利用率が高いのはInstagramです。特に若い女性の利用率が高いメディアです。したがってTwitterInstagram、さらに若い人に向けて情報発信するのであれば、それらに加えてYouTubeTikTokが響きやすいでしょう。  たとえば国土交通省は、若年層の防災知識の啓発のためにTikTokを使っています。TikTokは短時間動画のシェアがメインですが、レコメンド機能が優秀なのでどんどん情報が拡散されます。年齢層がかなり低いところにリーチできるという特徴がありますので、そこを狙って短時間で情報伝達したいのだったら有効でしょう。

 いずれにしても重要なのは、それぞれのソーシャルメディアの特徴を生かすことと、一方的な発信にならないことです。動画を配信する場合なら、たとえばインフルエンサーと組むと、情報伝達についても効果があるとわかっています。逆に、ただ喋るだけではあまり視聴されません。

 そもそもソーシャルメディアというのは、個人個人が友達感覚でコミュニケーションを楽しむツールです。コミュニケーションを意識してカジュアルにすることが重要だと思います。

讃井 ありがとうございました。非常に参考になりました。これからも正確かつより効果的な情報発信ができるようにしていきたいと思います。
119日対談 構成・文/鍋田吉郎)

 

ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授、山口准教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第74回は1220日掲載予定です。

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

■ヒューモニー特別連載 医療現場で起こっていること

写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。