医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第63回 増えている子供の感染、妊婦の感染

2021年08月23日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

新型コロナウイルス感染症第5波では、感染力の強いデルタ株により、これまでになかった感染経路が増えてきている。保育園で子供が感染し、そこから妊婦に二次感染した事例を、当事者となった集中治療医に讃井教授が訊く。

デルタ株の感染力は強く、今までにない感染の拡がり方が報じられています。たとえば、デパ地下のクラスターや大型商業施設のフードコートでの感染。私の周りでも、初めて聞くような感染が起こりました。

8月上旬、面識のある集中治療医Aさん(関東地方のある基幹病院に勤務。30代半ば)のご家族が感染しました。感染したのは4歳の息子さんと妊娠中の奥様です。家庭内感染の原因は息子さんが通園していた保育園で発生したクラスターでした。Aさんは、「参考にしていただくことで少しでも社会の役に立てれば」と、インタビューに応じてくださいました。

*   *   *

讃井 ご家族は3人ですか?

Aさん はい。妻と4歳になる息子と3人で暮らしています。妻は妊娠中で27周目。10月末に出産予定です。

讃井 みなさん感染には気をつけていた?

Aさん 特別に何かをやるというわけではありませんが、一般的な感染予防策を家族としてふだんから意識してやっていました。マスク・手洗いをきちんとする、外食しない、人の集まるところはなるべく避ける、といったことです。とはいえ、妻は妊娠していたので相当用心していました。第5波で急激に感染が拡がった7月以降は、できるだけ外出も控えるようにしていました。息子はまだ小さいので難しいですが、毎月送られてくる通信教育教材の中に手洗いの大切さなどをアニメで説明するDVDがあって、それで4歳なりに理解してくれているようです。私も息子と一緒に見たのですが、子供がヘルス・リテラシーを養えるようなよくできたアニメでした。

讃井 奥様はワクチンを接種していましたか?

Aさん まだでした。妊娠中の接種に不安を抱く方も多いと思いますが、妻は元看護師なのでさまざまな情報をもとに判断して、ワクチンを接種するつもりでした。けれども、私たちが住んでいる自治体では、年齢的にまだ予約が取れませんでした。妊婦が新型コロナウイルスに感染すると重症化リスクが高いというデータがありますので、個人的には早く打てるようになればいいなと思っています。 讃井 どのような形で感染がわかったのですか?

Aさん 8月上旬、夜勤明けで帰宅すると、保育園が休園になったということで息子が家にいました。保育園からの一斉LINEで、「先生が発熱したので休園にする」という連絡があったそうです。その夜から息子も発熱しまして、翌日近所の病院の発熱外来に家族3人で行ってPCR検査をしてもらいました。

 私は1年半以上集中治療室で重症患者を診ています。個人防護具をしっかりつけた状態で予防策を講じていれば、感染リスクが低いことはわかっています。かつ、ワクチンも2回接種しています。とはいえ、ブレークスルー感染の可能性もありますので、もし自分が病院で感染していて、それが保育園に広がってしまっていたらどうしようという思いが頭をよぎりました。結果、私は陰性でしたが、妻と息子は陽性でした。また、保育園では複数人の先生と園児が陽性でした。最初に誰から感染が拡がったかはわかりません。先生からかもしれないし園児からかもしれません。 讃井 保育園・幼稚園でクラスターというのは、以前はあまり聞いたことがありません。デルタ株で感染力が強まったから、という可能性がありますね。

Aさん 息子から妻への家庭内感染についても、正直「まさか」と思いました。私は自治体の入院調整の仕事も手伝っているのですが、第4波までの傾向として、子供が感染してそこから家庭内に拡がるという事例はほとんどありませんでした。ただ、今回のように小さい子供が感染して、かつ感染力を有する場合は、二次感染を防ぐのは困難だと思います。自宅内での厳密な隔離は難しいですし、保育園・幼稚園では正しくマスクを付けられない子供もいますし、ダメと言っても飛びついてくる子供もいます。どうしても至近距離でのコミュニケーションは避けられませんからね。

讃井 奥様が妊娠中でさぞご心配だったでしょう?

Aさん やはり不安でした。自宅内療養で呼吸不全が急激に悪化するケースがあることをよく知っていますし、妊娠中は重症化リスクが高まることも知っています。しかも、軽症だと自分が医療従事者としてできることはほとんどありません。幸い高熱が続くこともなく快方に向かったのでよかったのですが、発症して10日以上過ぎた今でもまだ咳がかなり出ていますSpO2(パルスオキシメーターによる酸素濃度)が下がることもなく、おそらく肺炎にはなっていないと思いますが、咳が続いて体がスッキリしない状態だといいます。そのあたりがちょっと普通の風邪とは違う印象を受けます。それと、妊娠については、自宅療養なので定期検診をスキップしていることも気がかりです。

讃井 息子さんの症状はいかがでしたか?

Aさん 39度台が1日出ただけで、すぐに37度台に解熱しました。あとはちょっと鼻水が出たぐらいで、見た感じはただの夏風邪のような印象でした。ただ、息子はもちろんですが妻もコロナに罹って辛いというのと同時に、ずっと家の中にいなければいけないストレスがあると思います。息子は活発なほうなので、「外に遊びに行きたい」としきりに言いますね。それもかわいそうです。

讃井 A先生も自宅待機ですよね。

Aさん 検査陰性ですが濃厚接触者なので自宅待機です。万が一でも患者さんにうつすわけにはいかないので仕方ありませんが、感染爆発といっていい現在の状況で戦線離脱せざるを得ないのは内心忸怩たる思いがします。医療提供の面で客観的に見れば、私が勤務している病院は規模が大きくてスタッフの人数も多いので、私が自宅待機となってもなんとか回っています。しかし、もしもう少し規模が小さい病院だったら、医師がひとり欠けることはかなり大きな打撃になったと思います。

讃井 家庭内で感染者が出た場合にどうすればよいのかなど自宅待機となってわかったこと、そして今回のご経験で気づいたことを教えてください。

Aさん 私は検査陰性だったので、部屋を分ける、食事を別に食べる、入浴は非感染者の私からにするなど、妻・息子と生活を分ける必要がありました。その際、自治体がホームページで公開している『自宅療養の手引き』が参考になりました。わかりやすくポイントが押さえられています

 (参考)

厚生労働省『家庭内でご注意いただきたいこと~8つのポイント~」

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601721.pdf

東京都『新型コロナウイルス感染症 自宅療養者向けハンドブック』

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/shien/zitakuryouyouhandbook.files/zitakuryouyouhandbook0128.pdf

 とはいえマンション暮らしなので、トイレの使用などある程度空間や時間を共有せざるを得ない場面が出てきてしまいます。正直、私が家庭内で感染しなかったのはワクチンを2回接種していたからなのではないかと思いますし、デルタ株の強い感染力を考えると、家庭内感染を防ぐのはかなり難しいと感じます。家族内感染を起こさないようにするためには、ワクチンの接種を早めること、感染者を宿泊療養施設に移すことが必要なのではないかと考えます。

 私は病院内では重症患者を診続けてきましたが、日常生活においては周囲に感染者は出ていませんでした。今回痛感したのは、今やすぐ身の周りまでコロナが迫っているということです。自分や家族がいつ感染するかわかりません。心構えをしておく必要があると思いますし、もちろんそうならないよう減らせるリスクは減らしていただきたいと思います。

讃井 貴重なお話をありがとうございました。

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 Aさんご家族の感染事例では、注目すべき点が2つあります。1つは、幼稚園・保育園や学校など、まだワクチン接種ができない世代・進んでいない世代の感染です。デルタ株蔓延前までは、子供世代の感染は親が家庭に新型コロナウイルスを持ち込むことで起こるケースがほとんどでした(57参照)。しかし、デルタ株では逆方向の感染の報告が増えてきています。子供は重症化しにくいとはいえ、家庭内にはワクチン接種が進んでいない現役世代(30代~50代)の親がいます。あるいはAさんご家族と同じように第2子以降を妊娠中のお母さんも多いでしょう。今は夏休みでまだ目立っていませんが、2学期になってこのパターンが増えるのが心配です。

 もう1点は、妊婦の感染です。817日、新型コロナウイルスに感染し自宅療養中の妊娠29週の30代女性が、入院先が見つからないまま自宅で早産し、新生児が死亡しました。妊婦は感染すると重症化しやすいことがわかっています。一方で、コロナ治療と産科の両方に対応できる医療機関は限られているのが現状です。一刻も早く受け入れ体制を整備するとともに、妊婦のワクチン接種を急ぐ必要があります。妊娠中のワクチン接種は不安だと思いますが、日本産婦人科学会は、「副反応に関しては一般の人と差はない」として接種を推奨していますし、CDC(アメリカ疾病対策センター)も強く推奨しています。ワクチン接種によるリスクに対し、感染・重症化を防ぐベネフィットのほうが大きく上回ると考えられているのです。

厚生労働省ホームページより。

 以前、感染症看護専門看護師の坂木晴世看護師は、「このウイルスはまるでブレーンでもいるかのように、非常に巧みに人間の社会の弱いところを狙って攻撃を仕掛けてくる」と述べていました(12参照)。高齢者の重症化リスクがワクチン接種によって減少した現在、ワクチン未接種の現役世代、妊婦、そして感染対策をとりにくい幼稚園・保育園や学校が狙われているのかもしれません。これに対抗するためには、社会全体で感染の流行を抑える必要があります。個々人の予防策、ワクチン接種をぜひお願いします。
817日インタビュー、821日一部口述 構成・文/鍋田吉郎)

 

ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第64回は91日掲載予定です。

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

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写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。