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医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第62回 第5波を乗り越えるために

2021年08月16日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

新型コロナウイルス感染症第5波の拡大はすさまじく、感染患者が入院したくても入院できなくなるなど、過去1年半の中でもっとも深刻な局面を迎えている。集中治療の最前線でコロナと闘う讃井教授は、「今は自分の身を守ることを考えてほしい」と訴える。

1日あたりの全国の新規陽性者数が2万人を超えてしまいました。

感染の主体は現役世代です(60参照)。埼玉県の727日から82日の新規陽性者5,750人の内訳は、10代以下が16%、20代が32%、30代が18%、40代が16%、50代が12%。50代以下を合計すると94%にも達しています。新型コロナウイルス感染症は若年層は重症化しにくいといっても、一定割合で重症化しますし、現在主流のデルタ株はこれまでのものより重症化しやすいことがわかってきています。これだけ若年層の新規陽性者が増えると入院が必要となる患者や人工呼吸器が必要となる患者もたくさん発生します。実際、埼玉県では30代でECMO(体外式膜型人工肺 3参照)が必要になった方がいます。

この数週間で埼玉県内のコロナ対応のベッドは一気に埋まってしまいました。その結果、入院したくても入院できない事例が増えてきています。自宅療養中に症状が悪化して救急車を呼んでも、入院できる病院が見つからず、症状によっては結局自宅療養を続けざるをえない――といったことが現実に起こっています。それはデータにも表れています。

813日、埼玉県の新規陽性者数は過去最高(13日時点)の1,696人を数えました。その結果、患者数は19,459人となりました(414人が退院・療養終了したため前日比1,282人増)。この内、入院している患者は1,177 (内重症者111人)、宿泊療養している方は624人、入院・宿泊療養等調整中が2,793人、自宅療養が13,059人となっています。ここで注目していただきたいのは、入院・宿泊療養等調整中と自宅療養の数字です。感染した方の内、入院できているのは6%にとどまるのです。

ともに埼玉県ホームページより。

埼玉県では、昨年来受け入れ可能病床数を随時増やしてきました。現在の確保病床は1,689床(内重症病床171床)。1年前の51日の457床(内重症病床60床)と比べれば、4倍近くになっています。その70%がすでに埋まっており、看護師などの人員の調整を行いながら真夏で増加している一般緊急入院患者のニーズにも応えなければならず、受け入れはほぼ限界に近づいているといえます。現在も予定入院や予定手術を減らして増床に努めていますが、呼吸器管理ができる看護師の数には限りがあり、増床余地も限界に近づいています(物理的にベッドを増やすのは簡単ですが、人を育てるには時間がかかります)。それに対して日々の新規感染者は爆発的なスピードで増えているため、本来であれば入院が必要な患者がなかなか調整がつかずに待機状態になったり、入院が望ましい患者が入院調整にもまわらずに自宅療養となっているケースが増えているのです。

埼玉県ホームページより。

新型コロナ感染症は、無症状・軽症ですむことも多いのですが、一定数の方は重症化します。しかも、重症化が急激で、ハッピー・ハイポキシア(27参照)といって本人が苦しいと感じていないのに肺炎が悪化するケースも多いのが特徴です。ですから入院したくても入院できない現在の状況は非常に恐ろしい。政治への不満、自粛疲れなどがあることは承知していますが、それでも、この1年半でもっとも感染が拡大し、かつ残念ながら必要な医療の提供ができなくなりつつある現在、ハイリスクな行動は割に合いません軽症ですんでも後遺症に悩まされるリスクがありますので、それを加味すればなおさらです。今は自分の身を守ることを考えて行動を選んでいただきたいと切に思います。

また、現在主流のデルタ株は従来型に比べてかなり感染力が強いことがわかっています。アメリカのCDC(疾病予防管理センター)によれば、1人の感染者から平均59人に感染するとしており、この数字は季節性インフルエンザなどよりはるかに大きく、空気感染する水痘(水ぼうそう)に匹敵します。人と話をするときは必ず不織布マスクをするなど、これまで以上に感染予防策を丁寧かつ油断せずに行ってください。

さらに、自分の身を守る大きな武器としてワクチン接種があります。

811日、厚生労働省は、6月中の年齢別感染者数、感染による死亡者数等を公表しました。それによると、65歳以上の高齢者におけるワクチンの接種回数別感染者数、死亡者数、死亡率(死亡者数/感染者数)は、未接種が5,387人、232人、4.31%1回のみ接種が857人、26人、3.03%2回接種が112人、1人、0.89%となっており、2回接種した方は未接種の方に比べ、感染後の死亡率が約5分の1となっています。埼玉県の727日から82日のデータでも、ワクチン接種が進んだ60代以上の新規陽性者数は、全体の6%にすぎません。60歳未満でワクチン2回接種後に重症化した方、亡くなった方は発生していません。実際、当院のICUに現在入っている患者のほとんどは、ワクチン未接種の現役世代(30代~50代)です。

厚生労働省ホームページ「HER―SYSデータに基づく報告」より。

デルタ株ではワクチンの感染予防効果が低下するというデータが各国から出てきていますが、重症化の予防効果は十分に保たれています。ワクチンを接種するかしないかは個人の判断で決めるものですが、接種のチャンスがあるならば、私は接種することをおすすめします。

一方で、われわれ医療側もできる限り努力をしなければなりません。さらなる増床はもちろん、後方病院の拡充も重要です。後方病院とはある程度回復した患者を受け入れる病院のことで、これを拡充すればベッドの空きを作れるのです。埼玉県では、後方病院との協力体制が進めてきたため、第3波の時と比べてかなりスムーズに回復患者の転院ができるようになってきました。

重症患者の急増(82日に56人だった県内重症患者が、13日には111人に)により、ICUの受け入れが困難になっていることに対しては、軽症・中等症を診療してきた病院でも重症患者の人工呼吸管理を高いレベルで行えるよう、集中治療専門医や専門看護師による診療支援制度も導入・運用しています。具体的には、軽症・中等症の病院に集中治療専門医が出向き、重症化した患者への人工呼吸器の気管挿管を行うなどの支援をしています。

また、自宅療養せざるを得ない患者については、県内で自ら手を上げた約500人の開業医の医師が、訪問診療をしています。

新たに特例承認された抗体カクテル療法によって軽症・中等症患者の重症化を未然に防いでいく必要もあります。この療法で効果を得るには、発症後早い段階で抗体カクテルを点滴投与する必要がありますが、当初厚労省は入院患者に限っていました。しかし、これでは軽症患者の入院が難しい現状ではなかなか使いどころがありません。この矛盾に関して、厚労省は13日に宿泊療養施設でも投与できるように規定を改定しました。医学専門誌『New England Journal of Medicine』に載った報告では、「抗体カクテルは1回の投与でも十分に効果がある」ということなので、今後は訪問診療などでも使えるように政策決定すべきでしょう。 みなさんにとっても、われわれ医療従事者にとっても、敵は新型コロナウイルスです。それぞれが今できることを実行し、力を合わせてこの危機を乗り越えましょう。
813日口述 構成・文/鍋田吉郎)

 

ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第63回は823日掲載予定です。

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

■ヒューモニー特別連載 医療現場で起こっていること

写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。