医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第43回 緊急事態宣言解除をどう考えるか

2021年03月22日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

新型コロナウイルス感染症の感染がわずかながら再拡大に転じた中、緊急事態宣言が解除された。それが意味することと今後やるべきことを讃井教授が考察する。

 一都三県の緊急事態宣言が解除されました。解除をめぐっては、「もっと感染を抑え込んでからの解除でなければ、すぐにリバウンドが起こる。解除反対」、「もはや緊迫感がなくなっているので、緊急事態宣言を続けても効果は薄い。解除賛成」、「そもそも緊急事態宣言の再々延長に意味がなかった」などさまざまな意見があり、そのどれもが一定の妥当性をもっています。

混乱の一因として、3月7日になぜ再々延長して21日になぜ解除したのか、整合性が見えないこともあるでしょう。私自身、解除やむなしと思っていますが、解除が正解だとまで断言することはできず、正直モヤモヤしている部分もあります。

そこで、データをもとに、解除の意味と今後の見通しを整理してみました(データは3月17日現在の埼玉県のものですが、首都圏ならびに全国でも相当程度共通する傾向があると考えられます)。

【新規陽性者数】1週間移動平均で見ると、1月上旬から中旬にかけては500人を超えていたが、2月下旬には約100人にまで減少した。しかし、3月初旬からわずかながら再び増加に転じた。現在、レベルとしては12月初旬に相当。

【PCR陽性率】1週間移動平均で、1月上旬には約11%だったものが、3%台前半まで低下。なお、PCR陽性率とはPCR検査において陽性と判定される人の割合で、PCR陽性率が低いほど、感染者の捕捉率が高い=見逃しが少ない、すなわち検査数が相対的に足りていることを示す。

埼玉県ホームページより

【病床使用率】1月上旬から60%以上が続き、一時は75%を超えたが(1月31日75.5%、うち重症58.6%)、入院患者数の減少(最大約1000人から500人台に減少)および確保病床の増加により、約37%に低下した。重症病床使用率も約20%に低下。

埼玉県ホームページより

【年齢別動向】3月に入り、10代・20代の新規陽性者が増加。

【感染経路の動向】3月に入り、それまでなかなか減らなかった高齢者施設における発生が減少。一方で、学校での発生が顕著に増加。1月下旬以降大きく減少していた飲食店・会食での発生も、3月に入り再び増加に転じた。また、2月中旬から昼カラオケでの高齢者の感染が増えている。感染経路不明割合は減少傾向で、3月17日時点で34.5%。

【死亡率】第2波以降、全体の死亡率は下がっている。

【変異株陽性者数】埼玉県内の確認件数は累計57人と多いので注意が必要(イギリス株42人、ブラジル株15人。全国では、イギリス株374人、ブラジル株17人、南アフリカ株8人、総計399人)。事業所、家庭、子ども施設、スポーツ団体競技で小さいクラスターが発生しているが、まだその周囲には広がっていない。クラスター対策で追えている。

以上のデータをまとめると、第一に、緊急事態宣言により感染状況が落ち着いてきているのは確かだと言えるでしょう。10万人当たりの新規陽性者数、病床使用率、PCR陽性率、感染経路不明割合などの指標は、すべてステージⅢ相当まで下がりました。

埼玉県ホームページより

 一方で、3月上旬に新規陽性者数がわずかながら増加に転じ、実効再生産数(1人の感染者が何人に感染が広がるかを示す指標。1人を下回れば感染は収束へと向かう)も1を上回ってしまいました。感染は再拡大し始めたと考えられます。

気になるのは、感染が十分下げ切らないうちに再拡大が始まってしまったことです。埼玉県では3月5日に、政府に宣言解除を求める際の目安を独自に公表しました。「①入院患者数が1週間平均で500人以下、②1週間の人口10万人当たり新規陽性者が7人以下」というものでしたが、その目安をクリアする前に再拡大に転じてしまいました。実際、医療現場でも入院患者の減少が止まった印象を受けています。

感染者をゼロに抑え込まない限り、宣言を解除すれば感染者は増加します。ましてや感染拡大に転じた中での宣言解除は、急激なリバウンドを起こすリスクがあります。その観点では、今回の宣言解除は理屈に合っていないと言えます。しかし一方で、感染が下げ止まった後に拡大に転じたのは、緊急事態宣言の効果が薄れてしまったからだと見ることもできます。

私は、今まで以上の強い措置をとらない(とれない)なら、緊急事態宣言をこれ以上続けても効果はあまり期待できないと考えます。国民の自粛疲れは限界に近く、2月下旬頃から人流が増え、宣言の効果が薄れつつあります。

ただし、宣言解除後も、引き続き人びとの行動を抑制する施策は続ける必要があると思います。直近の報道では、解除後も「まん延防止等重点措置」により時短命令が出ること、解除後も「Go To トラベル」は当面再開されないことが伝えられています。だとすれば、宣言解除は人びとの気の緩みを助長する面はあるにしても、人流に大きな変化はないかもしれません。第3波を引き起こした要因には、12月28日まで「Go To キャンペーン」が続いたり、飲食の機会が増えたことがあったのではないでしょうか。同じような明確なアクセラレーターがなければ、感染者数の増加は避けられないものの、急激な増加はない――やや楽観的かもしれませんが、そう期待しています。

では、そもそも2週間の再々延長に意味はあったのでしょうか。データは、その間に新規陽性者が増加に転じた一方で、入院者数は減少して一定程度に落ち着いたことを示しています。同時に病床の増床も進みました。

データには現れませんが、高齢者施設に対する施設内感染対策の指導教育をあらためて徹底することもできました。また、高齢者施設の職員を対象とした定期的なPCR検査も拡充できました。いずれも、3月に入って急激に減少した高齢者施設での感染発生を低水準のまま維持するため、そして今後来るかもしれないリバウンド時に高齢者施設でクラスターを発生させないためです。重症化しやすい高齢者の感染は、医療の逼迫に直結します。それを防止することはきわめて重要なのです。

そのほか、診療体制を改善する継続的な取り組みとして、さらに病床の確保を進めるとともに、新型コロナウイルス感染症の診療の質と安全性を向上させるために、医療従事者向けに月2回程度のウェブ勉強会も行われています(参考資料はこちら)。

以上から、再々延長の2週間は、ある程度時間稼ぎになったのではないかと思います。何のための時間稼ぎかといえば、それはワクチン接種が広がるまでの時間稼ぎです。厚生労働省は、高齢者へのワクチン接種を4月に開始し、6月末までに高齢者約3600万人の2回接種分を供給する見込みだとしています。感染状況が悪化する前に、なんとか高齢者へのワクチン接種を進めることができれば、医療の逼迫を回避でき、3回目の緊急事態宣言の必要可能性は小さくなると考えます。

厚生労働省ホームページより

 繰り返しになりますが、宣言解除によって感染者の増加がおそらく避けられないだろう中、高齢者にワクチンが行き渡る6月末までに感染爆発を起こさせないことが重要です。成否のカギは、政治・行政、医療機関、そして国民ひとりひとりの行動です。

埼玉県では、宣言解除後に4つのPに取り組むとしています。

Proactive(攻めの対策):店舗に二酸化炭素濃度測定器を設置してもらうなど感染防止対策の拡充、PCRなど検査の拡充、変異株対策など。

Protective(守りの対策):病床及び宿泊療養施設のさらなる確保、県内経済・産業の支援、誹謗中傷、あるいは風評被害対策など。

Proposal(国への要請):ワクチンの確保および接種への支援、財政支援、など。

PR(県民の皆さんへのお願い):あらためて飛沫対策を徹底すること、とくに昼飲み・昼カラに注意、テレワークのさらなる推進、など。

埼玉県ホームページより「大野知事の発言内容(3月19日)」一部抜粋

 政治・行政には、これまで十分とはいえなかった具体的な目標の提示、きめ細かい施策を望みます。医療機関は、今まで以上の連携、柔軟な対応により、医療逼迫の閾値を高めていかなければなりません。そして皆さんには、宣言解除後も「やることは変わらない」という意識を持っていただき、「マスク、手洗い、三密を避ける」といった感染予防策(第12回参照)を引き続きお願いしたいと思います。
(3月18日口述 構成・文/鍋田吉郎)

 

※ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第44回は329日掲載予定です。

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

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■讃井教授の取材報道・記事等はこちら(ときどき更新されます)

写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。