医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第29回 軽症者の後遺症の実態

2020年12月07日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

「若い世代こそ後遺症が怖い」――新型コロナウイルス感染症の後遺症外来で多数の患者を診てきた平畑光一・ヒラハタクリニック院長に讃井教授が訊いた、軽症者の後遺症の実態とは?

12月3日、厚生労働省に新型コロナウイルス感染症の対策を助言する専門家組織は、「入院、重症患者の増加が続き、医療体制へ重大な影響が生じるおそれがある」として最大限の警戒が必要だとしました。あわせて、20~50代の比較的若い世代が感染を広げているという分析結果も報告されました。若い世代は、感染しても比較的軽症であることが多いため、「やや緩んでいる」という見方もあります。しかし、「後遺症に苦しんでいるのは若い世代に多い」と警鐘を鳴らす医師がいます。通常の診療に加えて今春から新型コロナ後遺症外来を始められた平畑光一・ヒラハタクリニック院長です。 私自身は、勤務する自治医科大学附属さいたま医療センターで重症患者の治療にあたり、その後遺症を診てきましたが、軽症患者の後遺症についてはつぶさに診ることはできません。そこで今回は、平畑先生にぜひ軽症患者の後遺症の実態を伺いたいと思い、東京・渋谷のヒラハタクリニックを訪ねました。

平畑光一(ひらはた・こういち)

2002年、山形大学医学部卒業。東邦大学医療センター大橋病院消化器内科などを経て、現在、医療法人創友会ヒラハタクリニック院長。旧通産省第一種情報処理技術者。医療用AIの開発などにも携わる。

讃井 平畑先生はおそらく日本で一番、新型コロナ感染症の後遺症を訴える患者さん(以下後遺症患者)を診ていると思います。後遺症患者を診るようになった経緯から教えてください。

平畑 3月に、当院にかかっていた2人の患者さんに謎の症状が出現したんです。私の専門は消化器内科で、2人のうちのひとりはそれまで高脂血症(血液中の中性脂肪値が基準より高い状態)の治療をしていた患者さんでした。それ以外に持病のない若い男性です。その患者さんが突然、食べられなくなったり、微熱が続いたり、だるくなったりし始めたんです。当初は、「ちょっと風邪をひいたかな」程度だったので、私も新型コロナ感染症だとは認識していませんでした。でも、謎の症状はいっこうに良くなりません。そこで、いろいろ調べていくうちに、新型コロナ感染症の後遺症なのではないかという結論にいたりました

その後、「このような症状に苦しむ患者さんがいて、それに対して当院ではこういった治療をしています」という情報をホームページなどに上げていったら、患者さんが徐々に集まってきました。4月、5月からじりじり増えていったのですが、たくさんの患者を診療していくうちにわかってくることもたくさんあり、治療法も日々グレードアップしてきています。その情報をツイートしたところ、患者さんはさらに増えていきました。とくに9月から急激に増えたという印象です。 現在はオンラインでの診療が多く、北海道から沖縄まで日本中の後遺症で苦しむ患者さんを診ています

讃井 新型コロナ感染症で軽症だった方が後遺症に苦しんでいるということですが、その中には急性期に新型コロナ感染症だと確定診断を受けていない人もいるのですか?

平畑 1日だけ微熱が出たとか、ちょっと咳をしたといった程度で、本当に軽症です。新型コロナ感染症の確定診断に関しては、2月から5月ぐらいに症状が出た方だと、当時はPCR検査を受けられなかったという人がほとんどなので、確定診断がつかないままに後遺症が出てしまった患者さんが圧倒的に多かったです。

そういったケースでは、症状の出方である程度判断していくしかありませんでした2月以降に発熱等のイベント・エピソードがあって、その後にだるくなった――これが典型的なパターンです。ただし、新型コロナ感染症とは全然関係なさそうだなという場合もあります。そういう方は、ちょっと心気的(病気ではないかと過度に疑ってしまうこと)になってしまっているのかもしれません。

PCR検査が拡充された夏以降に来院された患者さんは、検査を受けて陽性だった方のほうが多くなりました

讃井 いままで何例ぐらい診られてきたのですか?

平畑 3月から現在まででおよそ400になります。

讃井 年齢的に多いのは?

平畑 若い人が多いですね。2040代。それと女性が多くて、男性の1.5ぐらいになります。  讃井 ひとくちに後遺症といっても、新型コロナ感染症では症状は非常に多彩です。どのような症状が多いのでしょうか?

平畑 大きく2つのタイプにわけられますひとつはウイルス感染後疲労症候群という言い方もあるのですが、いわゆる慢性疲労症候群の症状が出る方です。こちらのタイプの患者さんは複数の症状が出ます。3つ4つだと少ないぐらいで、5つ6つの症状があるのがあたりまえという印象です。だるさ、ねむけ、微熱、呼吸苦、体の痛み、びくつき、味覚嗅覚…。かなり多彩ですね。

もうひとつのタイプは、脱毛だけとか胸の痛みだけとか呼吸苦だけといったように単発の症状しかない方です。

いずれにしても、新型コロナ感染症自体は軽症だったのに、後遺症はものすごいきついという患者さんが多いですね。 慢性疲労症候群の典型だと思うのですが、とにかく動くとだるくなってしまう方が多いです。最初は私もわからなくて、「散歩をしたら少し気分がよくなった」という患者さんに、「じゃあ続けてみましょうか」と言ってしまいました。ところが、その患者さんは翌日から起き上がれなくなってしまった。慢性疲労症候群では、多くの場合、動いてしまうと数時間後、あるいは翌日、翌々日にだるくて動けなくなってしまいます。運動制限しないとどんどん悪化して、簡単に寝たきりになってしまうので、まずは「動かないで」と言わなければなりません

讃井 集中治療後症候群(第3回第9回参照)のような筋力低下は認められますか? 平畑 いえ。瞬間的な力は出せると思いますが、力を出してしまうと、その後だるくて動けなくなってしまいます。

讃井 神経障害のように痺れ等はありますか?

平畑 ありますね。ウイルスが直接脳神経に感染ということもあるそうなので、そこでなんらかの神経障害が起きるのかなと考えています。自律神経症状もすごく多くて、体位性頻脈症候群(POTS)という感染後の頻脈もあります。立ち上がった瞬間に脈拍が150に上がるといったように、少し動くだけで急激に頻脈になる症状です。

讃井 認知機能の低下はいかがでしょう?

平畑 非常に多いですね。ドラマチックに記憶がなくなる方はいませんが、言われたことを忘れてしまうといった症状があります。

讃井 フランスの研究データには「メモリーロス」と記載されています。大雑把な表現なので、おそらく入院している時のことを覚えていないという症状なのだろうと想像していたのですが、違うのですね。

(参考1)新型コロナの後遺症 記憶障害、脱毛、集中力低下など様々な症状が明らかに
(参考2)https://www.journalofinfection.com/article/S0163-4453(20)30562-4/fulltext

平畑 やろうとしたことが思い出せないとか、そんなこと言われたっけな、といったように短期記憶が落ちてしまうようです。一方で、集中できない、字を読んでも頭に入らないといったことを訴える方もいます。パソコンの画面がきつくて見られない…光がまぶしいからではなく、見るとつらくなってしまうようです。

讃井 不眠もありますか?

平畑 よくありますね。不眠とか不安障害になると、症状なのか症状からくる二次的なものなのかはちょっとわからないところもあるのですが…。

讃井 幻覚は?

平畑 幻覚はないですね。すくなくとも自覚的な幻覚はないと思います。

讃井 …それにしても症状が多彩ですね。 平畑 慢性疲労症候群とならんで、患者さんがとても苦労しているのは食欲不振です。食べ物をまったく受け付けなくなってしまう方もいます。胸やけや胸の痛みがあり、胃食道逆流症(GERD)を疑って胃カメラをやっても、CTを撮っても炎症は見られない――非びらん性胃食道逆流症(NERD)が非常に多いですね。

讃井 そういったさまざまな症状がある中で、治療による改善は見られるのですか?

平畑 割合としては、少しずつ良くなってきている方のほうが多いです。しかし、治療抵抗性がある患者さんもいらっしゃいます。実際、3月から見ている患者さんのひとりは、8か月経った今も仕事に戻れていません。そういったある程度重くて長い方になると、やはり気持ちのほうにもきてしまいます。抑うつと不安障害ですね。

讃井 他のウイルスでも、感染後に後遺症が起こることはあります。しかし、これだけ多数の後遺症患者が発生するのは新型コロナウイルスが初めてではないでしょうか。 平畑 インフルエンザが大流行した際も、これほど多くの後遺症患者は出ませんでした。新型コロナ感染症は、かなり後遺症が出やすい感染症だと言えると思います。問題はそれを診る医師がほとんどいなくて、後遺症に苦しむ人を一層苦しめてしまっていることです。また、社会、そして医師までも後遺症への理解がまだまだ不足していると感じています。

讃井 たんに後遺症の治療が簡単ではなく長期戦になること以外に、社会全体で取り組まなければならない問題があるわけですね。次回は、それらについて――後遺症に苦しむ患者さんを救うために解決しなければならない課題、平畑先生がどのような診療をされているのかについてお話を伺いたいと思います。
(11月25日対談、12月4日一部口述 構成・文/鍋田吉郎)

 

⚫︎ヒューモニーよりウェビナー開催のお知らせ

『正しく知る~新型コロナウイルス感染症の後遺症』

12月23日(水)20時から、本連載スピーカー・讃井教授 と 平畑光一・ヒラハタクリニック院長のウェビナー対談を行います。

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※ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授・平畑先生個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第30回「後遺症患者の二重三重の苦しみ」(1214日掲載予定)

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

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■讃井教授の取材報道・記事等はこちら(ときどき更新されます)

写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。