医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第30回 後遺症患者の二重三重の苦しみ

2020年12月14日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

新型コロナウイルス感染症自体は軽症でも、重い後遺症に苦しんでいる人は多い。しかも、精神的・経済的にも追い詰められている。平畑光一・ヒラハタクリニック院長に讃井教授が訊く、軽症者の後遺症の実態(後編)。

新型コロナウイルス感染症自体は軽症でも後遺症は重くなる場合があること、症状が非常に多彩で、かつ各種検査で異常が見つかりにくいこと、若い世代、とくに女性に後遺症患者が多いこと…。前回は軽症者の後遺症とはどういうものなのかを平畑光一・ヒラハタクリニック院長に伺いました。 もっぱら重症患者を診療している私は、集中治療後症候群(PICS)患者の電話フォローはやっていますが、軽症患者の後遺症を診療する機会はありませんし、時間的にも難しい。そして自分は集中治療医。急性期には強くても慢性期は弱い。専門の医師にお任せするのが一番です。

一方、後遺症患者が増え続ける中、後遺症に関する研究をしたり、論文情報を発信することも重要ですが、即効性がありません。実際に苦しんでいる患者の受け皿はあるのだろうか、受け皿を作りたいがどうしたら良いのだろうか、結局自分は何もしていないのではないか、と忸怩たる思いを持っていました。

そんなとき、後遺症外来を開設して軽症患者の後遺症を数多く診ていらっしゃる平畑先生の存在を知り、自分に何かお手伝いできることはないか伺ってみようと、取るものもとりあえずクリニックを訪問させていただきました。 今回も引き続き平畑先生に治療法や社会が取り組むべき課題についてお話を伺います。

平畑光一(ひらはた・こういち)

2002年、山形大学医学部卒業。東邦大学医療センター大橋病院消化器内科などを経て、現在、医療法人創友会ヒラハタクリニック院長。旧通産省第一種情報処理技術者。医療用AIの開発などにも携わる。

讃井 3月からおよそ400人の後遺症患者を診られてきた中で、どのような治療をされてきたのでしょうか?

平畑 まず、動くとだるくなる慢性疲労症候群の症状が出ている患者さんには、「動いたらだめですよ」という話をするところからですね。医師は、「動けるなら、少し体を動かしましょうか」と言いがちなんですが、慢性疲労症候群は動くと悪くなってしまうんです(第29回参照)。

讃井 重症患者の後遺症である集中治療後症候群(PICS)では(39参照)、早期リハビリがきわめて重要とされ、ECMO中からリハビリを試みます。それに対して慢性疲労症候群では「できるだけ動かさないこと」が最初の介入なのですね。われわれはつい「できるだけ動いて下さい」と言ってしまうので注意が必要ですね。

慢性疲労症候群の症状がある方に、薬は処方されるのですか?

平畑 漢方薬。それと亜鉛ですね。慢性疲労症候群の症状が出ている患者さんを調べると、亜鉛が非常に不足しているんです。少なくとも7~8割の方が亜鉛不足。血清亜鉛値が60~80μg/dLの方が多くて、これは潜在性亜鉛欠乏症のレベルです(正常な基準値は80~130μg/dL)。

讃井 食欲不振の患者さんに対しては?

平畑 漢方の六君子湯(りっくんしとう)を処方します。ただし、普通に飲んでも効かなくて、お湯に溶かしてちびちび飲んでもらうと徐々に食べられるようになるケースがほとんどです。また、場合によっては倍量投与します。その人の命にかかわる可能性さえあるので、これは知っておいていただきたいですね。

讃井 六君子湯の処方は何か論文に出ているのでしょうか?

平畑 いえ、経験です。いろいろやることで治療法は週単位でグレードアップしてきているのですが、その結果、食欲不振の後遺症患者には現時点でもっとも有効だと結論づけています。もう少し経験を積めば、論文を書けると思います。

それ以外には、患者さんによって相性もあるのですが、鍼灸がよく効く人もいるし、マッサージで調子が良くなる人もいるので、鍼灸院等を紹介することがあります。たとえば、食欲不振や倦怠感の患者さんは鍼灸やマッサージによってかなり改善する場合があります。  また、胸の痛み・動悸感・背中の痛み・息苦しさなどの症状の患者さんは胃食道逆流症(GERD、その中でも胃カメラやCTで検査しても異常が何も見つからない非びらん性胃食道逆流症(NERDを罹患していることも多く、少し厳密な生活療法や制酸剤の処方で改善することが少なくありません。

讃井 他に特徴的な介入はありますか?

平畑 後遺症で頻脈が出る方がいます。立ち上がった瞬間に脈拍が150に急に上がるといった症状で、体位性頻脈症候群(POTSというのですが、これに対しては着圧ソックスを履くこと、スポーツドリンクを飲むこと。これだけで改善する方が多いです。

それから、膵臓が弱い方がちょっと多いかなという印象もあります。リパーゼの値が高くて、左の季肋部を押すと痛みがある患者さんには、油物の制限や禁酒をしていただいています。

讃井 抑うつや不安障害になった患者さんも多いそうですが…。

平畑 いわゆる抗うつ剤や安定剤の投与になりますが、当院で出すことは少なくて、基本的には地元の精神科の先生に処方してもらうようにしています。気持ちのコントロールは精神科でやってもらって、私はそれ以外の後遺症を診るというスタンスです。

讃井 患者さんは、地元の精神科に行って、事情を話して診てもらうわけですね。

平畑 いえ。精神科の先生は、「新型コロナ感染症の後遺症で…」と言うと、「後遺症? 違うよ」と否定するケースが多いので、後遺症のことは隠して受診してもらうようにしています。

じつは、後遺症自体の診療でも状況は同じで、まだまだ理解されていない医師が大半だというのが現状です。「気のせいですよ」とか「気の持ちようです」といって患者を帰してしまう。あるいは、慢性疲労症候群に対して、「少し運動してみましょうか」と言ってしまう。しかし、慢性疲労症候群の傾向がある後遺症患者は、散歩などの運動で容易に寝たきりになってしまいます。そういったことがあるので、患者さんに「地元の病院で診てもらってください」とは言えないんです。

後遺症が非常にきつくて、入院が必要なのに、大学病院で断られた患者さんもいます。寝たきりで食事もほとんどとれないのですが、検査をしても何も出てこない。たしかに器質的な疾患はないので、それだと大きな病院では入院できないんですよね。

讃井 まだまだ、医療従事者自身に誤解や偏見もあるようです。PCR陰性が確認されて退院した患者さんが別な病気でクリニックを受診したところ、「うちはコロナは診ないから」と門前払いされたり、不要な再検査を強いられたりするケースも耳にしています。まず医療従事者が、再燃や再感染がない限り、後遺症の患者は感染性(他の人にうつす可能性)はないというシンプルな事実を理解しなければ、コロナ後遺症であることを隠さないと受診できないという不幸な事態を減らすことはできないでしょう。 重症患者を受け入れる当院では、PCR陰性を2回確認できれば通常個室に移動してもらい、通常の対応をしています。もちろん、そうしなければ次の患者を受け入れられない、という事情もありますが…。

平畑 さらに後遺症の患者さんを苦しめているのは、周囲の方の無理解です。「なまけているだけなんじゃないか」、「なんでもコロナのせいにして」、「気持ちが弱いだけなんじゃないか」…。そういうことを言われがちで、最悪の場合は仕事を解雇されてしまう。そんな例がたくさんあります。

讃井 ただでさえ後遺症で苦しんでいるのに、医師や社会の無理解でますます患者さんを苦しめている…。

平畑 半年ぐらい誰にもわかってもらえずにさまよって、ようやく当院にたどり着いた方がいました。診察してもすぐに薬が効かず、死にたくなってしまって精神科にも通うようになったのですが…間に合わなくて、自死された。そういう方が実際にいます。

ツイッターの中では、少し前まで、「死にたい」という人がものすごく多かったんです。私が、「絶対に改善するから」と一生懸命ツイートするようにして、どうにか減ったとは思うのですが、「死んだほうがいいのかな」と思う方はものすごく多い。

讃井 そういう方にはどのような言葉をかけているのですか。

平畑 日本はまだ少ないとされているけれど、たとえばイギリスでは新型コロナ感染症の後遺症患者が60万人いるという報道もあります。ですから、「世界中で苦しんでいる方がたくさんいることを医療関係者は見逃さない。今後新しい治療法が絶対に出てくる。僕自身の治療もどんどんアップグレードしているし、世界中で治療法が開発されていくわけだから、今調子が悪くても心配しなくていい。ずっと治らないわけではないよ」。そう伝えています。

讃井 他に後遺症の患者さんが苦しんでいることはありますか?

平畑 経済的な問題ですね。後遺症の症状が明確に出ている方の半分以上が仕事ができていない印象です。

そうなるとご家族も大変で、ご主人が仕事に復帰できなくて収入が減る。ひどい場合は解雇される。あるいは主婦の方が突然寝たきりになって、旦那さんが介護しなければならなくなる。

とくに深刻だと思うのは、後遺症に苦しんでいる患者さんの中で、2040代の女性の割合が高いことです。その層は派遣で働いている方が多いので、簡単に解雇されてしまい、経済的に困窮してしまっています。

讃井 国の補助等も考える必要がありますね。

平畑 公的な補助については考えてほしいと思います。ただそうなると、第一波の時にPCR検査を受けられなかった後遺症患者が、後遺症と認定されずに置いていかれる可能性もあります。難しい問題ですね。

現在も、まだまだ隠れている後遺症患者――ひとりで悩み、苦しんでいる方はたくさんいるはずです。

讃井 今後、そういった潜在的な後遺症患者が顕在化してくるでしょうし、第三波で激増した感染者の中から後遺症が出る方も増えるでしょう。今、何が必要だと思われますか?

平畑 まず、医療従事者は患者さんの話を嘘だと決めつけないでいただきたいですね。既存の疾患とは違うので、今までの常識で診てしまうと患者さんを傷つけて、へたをすると自死に追い込む可能性さえあります。「そういう症状があるんだね」、「大変だね」と聞くだけでも、患者さんは救われます。

 

そういった医療従事者の理解を前提として、後遺症を診察できる医師を増やす必要があります。後遺症に苦しんでいる方が、ご自分でいろいろ調べ、私がテレビに出ているのを見てようやく当院を見つけるという現状の流れでは、後遺症患者が万単位となったら到底対応できません。また、今は私がオンラインで診ていますが、本来は地元の医療機関で受診できるほうが望ましいわけです。

私自身は、後遺症診療のすそ野を広げるために、論文をできるだけ書いて認知度を上げていかなければならないと思っています。海外でも後遺症調査の論文はありますが、治療法についての論文は見かけません。当院では症状が改善している患者さんも多いので、論文にして発表しないといけないと考えています。 讃井 ありがとうございました。私も、後遺症の理解を広めるために微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います。

   *   *   *

 新型コロナ感染症の後遺症患者がどれだけ苦しんでいるか、どれだけ厳しい状況に置かれているか、平畑先生のお話は胸に突き刺さることばかりでした。

孤立している後遺症患者を救うためには、医療従事者の理解、そして診察可能な病院を全国的に増やすこと、さらに社会全体の理解が必要です。

そこで、まずできることから始めようと、平畑先生にお話を伺うウェビナー『正しく知る~新型コロナ感染症の後遺症』を開催します。12月23日夜、参加費は無料です。新型コロナ感染症の後遺症に苦しんでいる方やそのご家族・ご友人、後遺症を疑っている方、医療従事者はもちろんですが、できるだけ多くの方に視聴していただき、理解を深めていただきたいと思います。 また、「最も重要なミッションは、地域で診てくださる医師を一人でも増やすこと」という平畑先生の切実な訴えを実現させるために、医療従事者向けウェビナーの準備もしています。後遺症に苦しむ方の役に立ちたいのはもちろんですが、それだけでなく、もし平畑先生が疲弊してしまえば、そのほかの患者、そして何よりご自身やご家族にとっても不幸だと思ったからです。

今こそわれわれ医療従事者は、ワンチームにならなければならないと思っています。

(11月25日対談、12月12日一部口述 構成・文/鍋田吉郎)

 

⚫︎ヒューモニーよりウェビナー開催のお知らせ

正しく知る~新型コロナウイルス感染症の後遺症

12月23日(水)20時から、本連載スピーカー・讃井教授 と 平畑光一・ヒラハタクリニック院長のウェビナー対談(参加費無料)を行います。

申し込み方法等の詳細はこちらをご覧ください。

 

※ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授・平畑先生個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第31回「コロナで失われつつある通常の診療」(1221日掲載予定)

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

■ヒューモニー特別連載 医療現場で起こっていること

■讃井教授の取材報道・記事等はこちら(ときどき更新されます)

写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。