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医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第59回 コロナ下の今、発熱するとどうなる?

2021年07月19日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

新型コロナウイルス感染症の流行は、コロナ以外の発熱についても病院にかかりにくいといった影響を与えている。悪化したアクセスの具体的実態とは? コロナとは別の感染症に罹った本連載構成担当者に讃井教授が訊く。

新型コロナウイルス感染症の感染がふたたび急拡大しています。現在は重症患者数の増加は顕著ではなく、医療体制が逼迫しているわけではありませんが、感染力が強く重症化もしやすいとされる変異ウイルスは脅威です。今後医療が逼迫してくると、通常の診療ができなくなる可能性もあります(3334参照)。また、医療体制に余裕があるといっても、コロナ以前と比べれば一貫して医療へのアクセスが悪くなっています。 6月半ば、本連載の構成をしている鍋田吉郎氏が蜂窩織炎(ほうかしきえん:皮下組織に細菌が感染し、炎症が起こる病気)という感染症に罹って発熱、入院しました。その時、どのようなアクセスの悪さを体験したのか、新型コロナ感染症の不安とあわせて具体的な話を聞いてみました。

   *   *   *

讃井 最初はどんな症状が出たのですか?

鍋田 起床して数時間後、まず悪寒を感じました。熱をはかると38.3度。これまで、風邪などめったに引いたことがなくて、発熱しても水分をとって布団にくるまって汗をかけば一発で治ったので、今回もそのようにしました。ところが、翌日になっても熱が下がりませんでした。

讃井 コロナの心配は?

鍋田 もちろん多少の不安はありました。でも、発熱前2週間の行動を振り返ると、感染機会がほとんどありません。外食はしていませんし、外出も近所での買い物を除けば2回だけでした。1回は屋外でのインタビューで、もう1回は讃井先生が会長を務めた日本集中治療医学会・第5回関東甲信越支部学術集会(52参照)の取材。公共交通機関にも乗っていません。

讃井 家庭内感染の可能性は?

鍋田 妻は専業主婦で外出は近所での買い物だけ。大学生の息子2人は週2回ほど通学していますが、飲み会はもちろん外食も控えています。感染して無症状の可能性もないわけではありませんが、周囲の友人などに感染者は出ていないということなので、彼らからうつされた可能性もかなり低いのではないかと思いました。

讃井 新型コロナ感染症を疑うような症状はありませんでしたか?

鍋田 喉の痛みや違和感はなく、咳も出ない、鼻水も出ない、嗅覚・味覚障害もない、深呼吸してみてもふだんとかわらない、という状態でした。パルスオキシメーターで酸素飽和度(SpO2)を測っても、9798%で安定していました。家族が「試しに」とドラッグストアで簡易抗原検査キットを買ってきてくれたのですが、それも陰性。というわけで、たぶんコロナではないだろうと思っていました。 讃井 客観的に見て新型コロナ感染症の可能性はかなり低いといえるでしょうね。とはいえ、実際の感染者の中には、どこで感染したかわからないという方がいます。100%否定することはできません。

鍋田 はい。私も万一に備えて自宅内で家族と接触しないように自己隔離しました。ただ、いずれにしても39度近い熱が2日続くと非常にきつい。それで、讃井先生にオンラインで相談したところ、「コロナの可能性は低いとは思うが、もう1日発熱が続くようなら病院の受診を」とアドバイスをいただきました。それが2日目の夜です。

讃井 その時点で蜂窩織炎の炎症には気付かなかったのですか?

鍋田 患部は右脚のふくらはぎ下部だったのですが、とくに痛みも痒みもなく、ジャージを履いていたので気付きませんでした。最初に気付いたのは3日目の朝、着替え時です。広範囲に赤く腫れていて、押すと痛く、その腫れが熱を持っていました。それで讃井先生に写真を送り、症状を伝えると、「蜂窩織炎の疑いがあるから、すぐに病院に行くように」と。蜂窩織炎だとしたら、抗生剤の点滴および入院の可能性があることも教えていただきました。 讃井 蜂窩織炎を放っておいて敗血症になると怖いですからね。サイトカインストーム(3参照)が起こり、他の臓器にダメージを与えてさまざまな臓器障害(多臓器不全)が起こってしまいます。

鍋田 私はまず自治体のホームページを見て、コロナ下で発熱した場合のマニュアルを確認しました。そこには、「かかりつけ医やお近くの医療機関へ一度電話をしたうえで医療機関の指示に従って受診をするようにお願いいたします。」とありましたので、朝一番で発熱外来のある中規模病院(病床約200床の総合病院)に電話しました。しかし、最初にPCR検査を外のテントで行い、その検査結果が出るまでは病院の中に入れないとのこと。そして、結果が出るのは翌日なので、それまでは自宅療養になるとのことでした。コロナ下では、すぐにお医者さんに診てもらえないケースがあることを実体験として知りました。

讃井 中規模以上の病院の発熱外来では、現状ではそれが一般的な対応でしょう。明らかに緊急性の高い場合は違った対応になりますが、そうでない場合は院内感染を防ぐための対応だということをご理解いただきたいと思います。ただ、新型コロナ感染症の可能性が低く、蜂窩織炎の可能性が高いという今回のようなケースは、判断が難しいところではありますね。

鍋田 私としても、その病院の対応は仕方がないなとわかっていましたが、一方で、蜂窩織炎かどうかを早く診断してほしい、蜂窩織炎だとしたら抗生剤の点滴を早く始めたいという頭もありました。そこで、次に近所の個人病院(内科、発熱外来あり)に電話をして事情を説明したところ、診察をしてくれることになりました。

讃井 個人病院の発熱外来はどのような感染対策を講じていましたか?

鍋田 第一に、他の患者さんと分けるために、午前中の診察時間の終了時間に来院するよう指定されました。また、病院に入ると使用していないレントゲン室に隔離され、看護師さんや事務の方との接触が最小限になるように配慮されており、そこに入ってくる際には先生も看護師さんもPPE(個人防護具)を装着していました。そこで抗原検査を行い陰性。さらに問診後に喉や脚の腫れを診て、「新型コロナ感染症ではなく、蜂窩織炎の可能性が高い」と言われました。ただし、その病院は入院対応をしていないので、朝電話をした中規模病院に行くようにと紹介状を出されました。

讃井 中規模病院ではスムーズに診察を受けられましたか?

鍋田 いえ。紹介状の効力はなくて、発熱外来のルール通りに外のテントで待つようにと指示され、PCR検査が終わったら検査結果が出るまで自宅療養するように言われました。振り出しに戻ってしまったわけです。しかも、PCR検査までかなり待たされました。ところが、PCR検査をしに医師がテントにやってくると状況が一変しました。その先生は、脚の腫れを見るなり、「血液検査をして、CTもとりましょう」と言って、私を病院内に入れてくれました。そこからは速かったですね。隔離部屋が用意され、PPEを装着した看護師さんが採血。その結果、C反応性タンパク(CRP:体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質。基準値は0.30mg/dL未満)が7.64mg/dLで、CT画像でも皮下の腫れが顕著であったことから蜂窩織炎と診断され、すぐさま抗生剤の点滴が始まり、入院が決まりました。 讃井 朝から動いたわけですが、入院が決まったのは何時頃ですか?

鍋田 16時過ぎです。38度台の熱が続いていて体がしんどい上に、なかなか診察・検査までたどりつけなかったので、精神的にもきつかったです。

讃井 入院後は、PCR検査の結果が出るまでは個室に隔離されたのですか?

鍋田 はい。了承の上での入院ですが、差額ベッド代をきっちり取られました。 讃井 個室隔離はやむをえないと思いますが、新型コロナやその疑いの場合に差額ベッド代を請求するかどうかは病院によると思います。当院(自治医科大学附属さいたま医療センター)では、いただいていません。

鍋田 入院翌日には陰性の検査結果が出たので4人部屋に移りました。12回の抗生剤の点滴が効いて熱も下がり、体はどんどん回復していきました。そして、入院5日後に退院できました。

讃井 蜂窩織炎は、それと気付かずに放置して悪化させてしまうケースがしばしばあります。早めに気付いて入院できたのがよかったのでしょう。ところで、入院中に何か感じたことはありましたか?

鍋田 院内感染を起こさないためには病院が厳格な対応を取らざるをえないと思いますが、患者側から見ればコロナ以前より確実にアクセスが悪くなっていて、いざ病気になると肉体的にも精神的にも相当ストレスがかかるということ。かつてのようなアクセスのよさがどれだけありがたいものだったのかを実感しました。

 また、私の場合、讃井先生に事前にオンラインで相談できて、蜂窩織炎の可能性が高いというところまで絞り込めていたわけですが、同様にリアルに病院にかかる前に行うリモート診療が広がれば、医療をもっと効率化できるのではないかと思いました。

 それともうひとつ。医療従事者の皆さんの大変さを目にし、感謝の念をあらたにしました。個人病院でも、中規模病院の発熱外来の外テントでも、あるいは私が入った整形外科病棟でも、私が検査陰性になるまでは皆さんPPEを装着するなど、あらゆるところでひと手間もふた手間も増えていました。コロナ患者を直接診ていない医療従事者でも、コロナ対応によって相当負担が増えているんですね。

讃井 コロナ下では、ある疾患の診断にあたって新型コロナ感染症か否かも調べなければなりません。かつ、感染予防策も講じなければならず、診察に時間がかかるかもしれません。しかし、それは皆さんの安全を守るためですので、申し訳ないですけれど我慢していただきたいと思います。  また、新型コロナ感染症は怖い病気ですが、怖い病気は新型コロナ感染症だけではありません。新型コロナ感染症かどうかに関係なく、必要な時は躊躇なく受診していただきたいと思います。
715日口述 構成・文/鍋田吉郎)

 

ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第60回は726日掲載予定です。

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

■ヒューモニー特別連載 医療現場で起こっていること

写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。