前回に引き続き、聖マリアンナ医科大学小児科学教室の勝田友博准教授に子供の新型コロナウイルス感染症についてお話を伺います。今回は、小児(20歳ぐらいまで)のワクチン接種について、専門医の立場から客観的・科学的な見方をお聞きしたいと思います。
日本小児科学会専門医指導医・日本感染症学会専門医指導医・日本小児感染症学会暫定指導医。2001年聖マリアンナ医科大学卒。日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会が行っている国内小児新型コロナウイルス感染症患者のレジストリ調査の実務を担当している。
讃井 小児科の王道は感染症だという印象を私は持っているのですが、勝田先生は感染症をずっとやってこられたのですか?
勝田 私の専門領域はワクチン教育であり、その中でもとくに「ワクチンヘジタンシー(ワクチン忌避(きひ)、接種へのためらい)」対策を研究テーマにしています。具体的には、「ワクチンを躊躇(ちゅうちょ)する人達に対してどのような説明をすると安心して接種してもらえるのかを検討しています。
讃井 ワクチン忌避について、具体的にはどのような活動をしていらっしゃるのですか?
勝田 ワクチン忌避の主な原因は「3C」にあると言われています。一つ目Cは、Complacency(自己満足)。「その感染症はもう流行っていないのでワクチンは打たなくても大丈夫、もしかかってしまっても自分は健康で体力があるから大丈夫」といったような考えを持ってしまうことです。二つ目は、実際に接種する時間や場所が確保できないとか、お金がかかるというような、Lack of Convenience(利便性の欠如)。そして、三つ目は、ワクチンそのもの、あるいは接種を推奨する人を信じることができないといった、Lack of Confidence(信頼性の欠如)です。こういったワクチン忌避をお持ちの方に説得力のある説明をするためには、正確な医学的な根拠(エビデンス)が必要となります。私たちの主な活動はそのようなエビデンスを作成することです。
讃井 ワクチン接種を躊躇する方には、実際にはどのように接していらっしゃいますか? 勝田 まず始めに、ワクチン接種を躊躇することは自然なことであり、じつは実際にワクチンを接種している方たちの中にも「ためらい」の気持ちは潜在しています。したがって、躊躇していることを決して責めず、むしろワクチンに関する様々な心配は自然な感覚であることを共有します。接種を悩んでいる人たちの不安を理解し、ワクチン接種のどの部分が心配であるかを確認して、その点に関して丁寧に説明し、接種するメリットのほうがデメリットよりも大きいことをお伝えします。接種するかどうかを迷って外来に相談に来る方の多くは、基本的にはワクチンを接種したいという気持ちをお持ちの方です。ですから、正確な情報をもとにメリット・デメリットを説明することにより、多くの方は納得して接種していただけます。
ただしこの方法には問題もあります。ワクチン接種を拒否し病院に来ない方には、我々のメッセージが届かないことです。
讃井 新型コロナ感染症のワクチンの小児への接種についてはいかがでしょうか。各種調査では、年齢が若いほど「ワクチン接種をしたくない」と考えている人が多いことが明らかになっており、接種したくない理由としては、「感染しても重症化しないから」、「副反応が怖いから」が主にあげられています。
現在日本の新型コロナワクチンの接種対象者は12歳以上ですが、たとえば中学生のお子さんを持つ親御さんに、「子供は感染しても軽いんでしょ。なぜ打つんですか?」と言われた場合にどのような説明をされるのでしょうか?
勝田 たとえば、「副反応が怖いから」とおっしゃる方には、どんな副反応が心配かを尋ねます。最近しばしば話題になっている「若年者における接種後の心筋炎」が心配なのであれば、「海外では男性では100万人に39-47人,女性では100万人に4-5人ぐらいと非常に稀。症状が出た場合でも多くの方が回復している」と、具体的な数値を用いて最新の情報をできるだけわかりやすく説明します。同様に「子供は感染しても軽いんでしょ。なぜ打つんですか?」とおっしゃる方には、接種しないことによるMIS-C(第57回参照)のリスクなどを説明します。もちろん、全ての方に接種することの有効性もしっかり伝えます。
そういったワクチン接種のメリット・デメリットを丁寧にお伝えした上で、ワクチン接種は強制ではないので、最後は個人の判断にお任せすることになってしまいますが、私は「接種するメリットの方が大きいので接種をお勧めします」と自分の推奨を明確にお伝えします。普段から気心の知れているかかりつけの先生からの明確な推奨は接種を受ける人たちにとっては安心材料になると思います。 讃井 子供が新型コロナに罹患して重症化する可能性とワクチン接種で重篤な副反応が出る可能性を比べた場合、現状でも「罹患して重症化するリスクのほうが高い」という認識でよろしいわけですね?
勝田 私はそう考えます。確かに子どもの新型コロナは一般的に軽症であるとされていますが、例えばMIS-Cの他に、肥満や糖尿病などの基礎疾患をお持ちだと、子どもであっても一定の割合で重症化することが知られています。
讃井 前回のお話のとおり小児の感染者の絶対数がじわじわ右肩上がりとなっている中では、重症化する小児の数もじわじわ増えていくと予想されます。さらに、若年層でも後遺症のリスクがあります。それらを考えれば、小児もワクチンを接種したほうがベネフィットが大きいと考えられるわけですね。では、その考えを先ほど勝田先生がおっしゃったような、「ワクチンが怖くてそもそも病院に来ない」人に届けるにはどうしたらいいのでしょうか? 勝田 非常に難しい課題なのですが、まず重要なことは、国やアカデミア(学会など)が正確かつ最新のエビデンスをもとに明確な指針を示すことだと思います。ただし、一般の方々がそのような情報にたどり着くことは難しいことが多く、実際にもっとも影響力があるのはマスメディアだと思っています。ただし現状では、マスメディアからの情報がなかなか正確に伝わらず、一部のセンセーショナルな情報だけが記憶に残りやすいということかと思います。その点からは、アカデミアとマスメディアの連携は非常に重要だと思います。
讃井 マスコミによって、逆にますます「怖く」なってしまっている。
勝田 センセーショナルな情報は脳裏に残りやすい面があります。例えば、国内では一部のマスコミから「ワクチン接種後に〇〇人が亡くなった」という情報が発信されることがありますが、実際はその方々の年齢や基礎疾患などの詳細はわかりませんので、その情報が広く多くの人にも同様に起こりうる事象であるのかまではわかりません。さらに、ワクチン接種との因果関係を正確に理解するためには、「同じ環境でワクチンを接種しなかった人が何人亡くなっているのか」と比較しなければなりませんが、そのような報道がなされることは非常にまれです。われわれ専門家は、マスメディアの方々にそれらの情報を正しくご理解いただくように情報発信しなければいけないと思います。
讃井 一方で、他の人に「ワクチンを打つな」と喧伝している声の大きい人もいます。どうしたらいいと思いますか?
勝田 SNSの影響力がものすごく大きい時代になって、対応がより難しくなってきていると感じます。SNSは同じ考えの人が集まってグループ化していくので、ワクチン反対派は彼らのグループ内でコミュニケーションをとるようになってしまっており、われわれの声が届きづらいのです。
ただ、少なくとも接種を迷っていらっしゃる方が、ワクチン接種に慎重な考えを記載したSNSからの情報だけに影響を受けることがないよう、われわれ医師が正確かつ最新の情報を発信し続けることが重要だと思います。特に気心の知れたかかりつけの先生からの明確なアドバイスはとても有効です。また、やや難しいかもしれませんが、一般の方々にも、SNSやマスメディアからの受動的な情報だけでなく、ぜひ自発的に厚生労働省や学会が提供する情報など、公的な情報にもアクセスしていただければと思います。公的な情報は、多くの場合、公開前に第三者による十分な評価がなされるため(査読といいます)、開示までには少々時間を要しますが、その分やはりもっとも信頼できる内容となっています。 讃井 厚労省の『新型コロナワクチンQ&A』には、前述の心筋炎の他、「妊娠中の接種」や「長期的な影響」など、ワクチンのさまざまな懸念点について説明があります。その説明は、世界中の研究に基づいて大多数の専門家のコンセンサスを得ている最新知見――つまりもっとも客観的、科学的なものだといえます。ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思います。
勝田先生、示唆に富むさまざまなお話、ありがとうございました。
(6月21日対談 構成・文/鍋田吉郎)
※ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授、勝田准教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。
連載第59回は7月19日掲載予定です。