新型コロナウイルス感染症が収束しないまま、2度目のゴールデンウィークを迎えてしまいました。コロナ禍が長引けば長引くほど「慣れ」や「疲れ」が生じるのは、やむを得ないことだと思います。あるいは、政府・行政の作為・不作為に対する不満が高まるのも当然でしょう。とはいえ、新型コロナ感染症が恐ろしい病気だという事実は、(少なくともワクチンが普及するまでは)変わりません。臨床現場で感染患者を診療している医師で、「コロナはただの風邪」「インフルエンザと同じようなもの」と考えている医師はひとりもいないはずです。
では、この第4波において、ひとりひとりは何をやるべきなのでしょうか? 慣れや疲れがある中ではとてもしんどいことですが、現在のデータを客観的に見て考えてみたいと思います。
ただし、各都道府県によってデータが示す現況はかなり異なります。大阪府を中心とした関西圏は昨年パンデミックが始まって以来国内最悪の状況が続いていますし(第47回参照))、東京都も1日の新規感染者数が1000人を超えてきました。また、緊急事態宣言が発出されていないものの、福岡県も急激に悪くなっています。ですから、お住いの都道府県が公表しているデータを見て、状況を把握していただければと思います。以下は、私が勤務する自治医科大学附属さいたま医療センターがある埼玉県の5月1日現在の状況です。 ①新規感染者数
直近7日間の移動平均で195人(最も多かったのは第3波の1月20日の446人)。3月中旬からじわじわと増えています。実際、重症患者数もここ数日1日あたり5~6人ずつ増え、転院調整(重症病床がある病院への転院の調整)も増えています。また病院でも、発熱などの症状があって来院する患者の中に、陽性患者をチラホラと認めるようになりました。ただし、増加率は比較的緩やかで、現在はほぼ横這いとなっています(98.3%)。
②実効再生産数(1を超えると感染が拡大していることを示す)
3月初旬に1を超えましたが、その後1~1.2の間を推移し、5月1日時点では0.99と1を下回りました。この数字からも、急激な感染者増は起こっていないことがわかります。ちなみに、これまでの最大値は4.61(昨年3月12日)、第3波の最大値は1.47(1月11日)です。
③PCR検査陽性率
直近7日間の移動平均が4.5%(4月30日時点)。4月下旬から徐々に低下傾向にあります。PCR検査陽性率とは、PCR検査を受けた人の中で陽性者となった人の割合を示す数字です。この数字が低いほど、「感染者の捕捉率が高く、必要な検査が行われている」つまり「新型コロナ感染症をコントロールできている」と考えられます。WHOは「検査陽性率5%未満を目指すべき」としていますので、埼玉県はある程度感染をコントロールできているといえるでしょう。
④病床使用率
42.5%(入院患者655人、受け入れ可能病床1541床)。うち重症病床使用率は25.8%(重症患者40人、重症病床159床)。いずれの数字もステージⅢの範囲におさまっているものの悪化しています。
⑤発症者年齢別割合
30代以下が53%(4月16日~22日のデータ。2月15日~21日では37%)となっており、発症する年齢層が若年化しています。とくに変異ウイルスでその傾向は顕著で、若年層で有意に多く、高齢者はわずかです。実際、高齢者施設でのクラスターは最近ではほとんど発生していません(高齢者施設のクラスターは、感染蔓延後に遅れて発生する傾向があります)。また、発症者の若年化にともない、若い方(30代、40代)で重症化する例も増えてきました。その多くが肥満体型であることも付記しておきます。
⑥変異ウイルスの割合
3月下旬以降、感染者における変異ウイルス(主にN501Y変異を持つ英国型)の割合が増加しています。4月5日~11日で14.5%、12日~18日で34.0%となっており、感染力が強く重症化しやすいとされる変異ウイルスに置き換わってきていると見られ、非常に危惧しています。
以上の現状データからは、緊急事態宣言を発出しないという埼玉県の判断は妥当であると考えられます。なんとかこのまま第4波を乗り越えられるのではないか――そう期待しています。
しかし、油断はできません。大阪府では、新規感染者数の1週間ごとの増減率が一時は200%を越え、一気に感染が拡大しました(3月26日に192人だった新規感染者数の7日間移動平均が、3週間後の4月16日には1025人に)。変異ウイルスの影響以上に、緊急事態宣言前倒し解除後の急な反動が大きな要因だったと私は思います。その結果、集中治療室の全てを新型コロナ重症患者用にあて、術後に集中治療室を使う心臓や消化器などの大きな手術を延期せざるを得ない病院も出てきました(第34回「通常診療ができないとは?」参照)。大阪府では1日でも早く感染者数を減らす必要がありますし、それ以外の地域でも今以上に感染が拡大しないようにしなければなりません。埼玉県でも、日々データを注視しながら、感染拡大のペースが急上昇するようであれば、早め早めに手を打つべきでしょう。
一方で、病床確保など医療体制の整備も引き続き行っていかなければなりません。現在、埼玉県の受け入れ可能病床数は1541床、うち重症病床は159床です。1年前の5月1日は、それぞれ457床、60床でしたから、およそ3倍になったことになります。また、第3波の今年1月1日時点の1229床、107床からも着実に増えています。さらに、これまで軽症中等症を診療してきた病院でも重症患者の人工呼吸管理を高いレベルで行えるよう、集中治療専門医や専門看護師による診療支援制度も導入しました。
とはいえ、天井をどれだけ高くしても、青天井にすることはできません。感染爆発が起これば、天井を突き抜けてしまいます。やはり一番大切なのは、感染を拡げないことです。そのためにもっとも有効なのは、ワクチンが普及するまではひとりひとりの感染予防策の徹底です。それは変異ウイルスが相手でも変わりません。
新型コロナウイルスはおもに飛沫で感染します。「マスク」、「三密回避」は非科学的な根性論ではなく、感染予防に一番効き目のあるロジカルで科学的な方法です。実際には、これらの予防策をとっているつもりでも、マスクから鼻が出ているなど、案外正しくできていないことが多いものです。ぜひ、もう一度基本を確認していただきたいと思います。
最後に、私が期待する今後のシナリオをお話ししましょう。
①まん延防止等重点措置や4都府県の緊急事態宣言により、全国的に感染者が減少する。②その後、感染拡大を抑えつつ、その間に高齢者へのワクチン接種を終える。③夏前後までがんばったものの、第5波が起こってしまう。しかし、高齢者へのワクチン接種が完了しているので、重症患者が増えず、医療逼迫を回避。④夏から秋に向けて全国民へのワクチン接種が始まり、順調に進む。⑤その結果、秋から冬にかけても第6波が来ない。すなわちコロナ収束。
このシナリオは楽観的かもしれません。けれども、けっして実現不可能なシナリオではないと思います。実現させるためのキーは、まず現在の感染者数を減らし、7月頃まで感染を拡大させないことでしょう。今が踏ん張りどころなのです。
(5月2日口述 構成・文/鍋田吉郎)
※ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。
連載第50回は5月10日掲載予定です。