ポストコロナのIT・未来予想図

ヒューモニー特別連載3

第56回 中国の暗号資産への厳しい姿勢

2021年10月13日 掲載

筆者 山岡浩巳(やまおか・ひろみ)  

先月、中国は国内での暗号資産取引に関し、再び厳しい姿勢を打ち出した。この背景などについて、暗号資産や中国の金融規制に詳しい元日銀局長の山岡浩巳氏が解説する。

本年9月、中国当局は暗号資産(仮想通貨)に対し、厳しい方針で臨むことを表明しました。この方針については、中国のデジタル人民元(6参照)とも絡めた報道もあり、注目を集めています。そこで、この方針の内容や、中国の現在の政策スタンスとの関わりについて解説したいと思います。

中国と暗号資産(仮想通貨)との関わり

もともと中国は、ビットコインの取引やマイニング(採掘、ビットコイン取引の検証を通じて新たなビットコインを獲得しようとする行為)においても、世界で圧倒的なシェアを占めていました。これは、ビットコイン投資への中国の人々の高い関心や、大量の電力を消費するマイニングを行う上で、中国、とりわけ内陸部の電力料金の安さが魅力であったことを反映したものです。

2017年、暗号資産(仮想通貨)への投機熱が内外で高まる中、中国は暗号資産への規制を強化し、国内での暗号資産の取引所での取引を禁止しました。これを受け、世界最大の暗号資産取引所を運営していたバイナンス社は拠点を中国の外に移すなどの動きが進め、中国での暗号資産取引やマイニングも減少しました。

しかし、基本的に国境の制約を受けずにインターネット上でやり取りされる暗号資産の取引を完全に止めることは、インターネットそのものを遮断しない限り困難です。実際、外国の取引所を経由しての暗号資産取引やマイニングは、ある程度行われ続けました。

ビットコイン取引の取引通貨別シェアCNY:中国人民元、JPY:日本円、USD:米ドル、KRW:韓国ウォン、EUR:ユーロ
出典:国際決済銀行

ビットコインのマイニング消費電力国別シェア出典:Cambridge Centre for Alternative Finance

中国当局による公表文書の内容

このような状況下、中国の金融監督当局(銀監会、証監会)や中国人民銀行などが合同で、915日(文書の対外公表は24日)、「仮想通貨取引における誇大広告のリスクのさらなる防止と処分に関する通知」という文書を発出しました。

この文書はまず、「最近、仮想通貨取引の誇大宣伝活動が増加し」、「ギャンブル、違法な資金調達、詐欺、ピラミッドスキーム、マネーロンダリングなどの違法および犯罪活動を繁殖させ、人々の財産の安全を深刻な危険にさらしています」と書かれています。このように中国当局は、暗号資産を巡る「誇大広告の増加」を問題視しています。

そのうえで、「ビットコイン、イーサリアム、テザーなどの仮想通貨」について、「合法ではなく、使用すべきではなく、使用することもできません」、「仮想通貨関連の事業活動は違法です」と宣言されています。加えて、「海外の仮想通貨取引所がインターネットを介して中国人居住者にサービスを提供することも違法です」と明記されています。

さらに、「仮想通貨取引の誇大宣伝のリスクへの対処」を掲げ、地方政府による暗号資産取引に関する誇大宣伝の取り締まりを強化すると書かれています。加えて、金融機関が暗号資産関連のサービスを提供することや、企業が「仮想通貨」などの文言を用いた広告を打つことなども禁止しています。なお、この文書発出に先立って、中国当局は、中国国内のビットコインのマイニングも禁止する方針を打ち出しています。

中国当局の狙い

この文書が示す通り、中国当局の狙いは、技術的には完全には止めにくい国内での暗号資産取引について、取り締まりや罰則の強化、関連する金融機関や企業への締め付けの強化によって実効性を高めること、および、特に誇大宣伝に焦点を当て、これを止めさせることにあります。

実際、中国でも、金融リテラシーの高くない層を狙い、「値上がり益が期待でき、いざとなれば支払いにも使える」といった謳い文句で投資を募る話を聞きます。もちろん、これはひどい宣伝です。「価値の変動」と「支払いに使える」は相反するものであり、「自分が使いたい時になると都合良く価値が安定してくれる資産」など、ある訳が無いからです。

とはいえ、中国のスタンスは、他国に比べればやはり厳しいと言えるでしょう。他国では基本的に、「暗号資産に投資をする人は、そのリスクを十分認識すべきであり、誤ったリスク認識に誘導するような広告宣伝などは行わせない」という方向での対応が採られることが多く、暗号資産取引自体を禁じる国々は少数派です。これに対し、中国はさらに踏み込んで、暗号資産の取引そのものを禁止している点が特徴です。

中国のスタンスの背景

このような中国のスタンスに対しついては、デジタル人民元との関係に言及する報道が目立ちます。もちろん、そう報じた方が人目は引きやすいでしょうが、デジタル人民元との直接の関連は大きくないと思います。

まず、中国はここにきて暗号資産への厳格姿勢を急に打ち出したわけではありません。前述の通り、既に2017年から中国は暗号資産の取引に厳しい姿勢で臨んでいます。そもそも中国当局はあらゆる匿名取引に総じて警戒的であり、これが暗号資産への対応にも反映されているでしょうが、「デジタル人民元を出すから暗号資産を禁止する」という因果関係ではありません。

また、日本では交換業者が価格変動リスクを負担する形でビットコインが限られた金額の支払いに使える事例がありますが、中国では暗号資産は専ら投機・投資の対象であり、支払決済にはほぼ使われていません。したがって、仮にデジタル人民元が発行される場合でも、真正面から競合するのは、同様に支払決済に使われているAlipayWeChat Payです。デジタル人民元と暗号資産が競合するわけではありませんので、やはり、「デジタル人民元を出すから暗号資産を禁止する」という話にはなりにくいように思います。

この中で、中国が引き続き暗号資産取引に厳しいスタンスを採っている背景としては、2017年以降の厳しい姿勢の下でも、なお相当量の暗号資産取引やマイニングが中国国内で続けられていることが挙げられます。また、暗号資産への投機を通じて、一部の人々が大きく得をし、別の人々が大きく損をする事態に対し、中国当局はとりわけ、経済秩序を脅かすものとして警戒的であることも指摘できます。

国際的議論との関係

今回公表された中国当局の文書は、基本的に暗号資産への「投機」を問題視したものであり、ビットコインやイーサリウムといった、発行者がおらず誰の債務でもない暗号資産を取り上げています。もっとも、列挙されている暗号資産の中に、ステーブルコイン(金やドルなどの資産を裏付けにして、価格が安定するよう設計された暗号資産)を自称する「テザー(Tether)」も含まれるのは興味深い点です。

現在、ステーブルコインを巡っては国際的にも、有望な決済手段となるのではないかという議論の一方で、「ステーブル」を標榜しながら価値保全策が不十分なものがあるのではないかという点が注目されています。この中でテザーについては、安全資産で100%裏付けられておらず、コマーシャルペーパーなどリスクのある資産を多く抱えていることなどが指摘されています。このような世界の議論を、中国も敏感にフォローしていることが窺われます。

主なステーブルコインの裏付け資産の構成出所:国際通貨基金

さらに、ビットコインの「マイニング」を巡っては、現在、その電力消費が環境に及ぼす影響への関心も高まっています。この中で、マイニングの禁止は、脱炭素を巡る世界の議論や中国の方針に沿う部分もあるわけです。これらから見ても、中国当局は闇雲に規制強化をしている訳ではなく、ある程度世界の動向もフォローしながら規制を考えているように感じます。

 

連載第57回「注目を集めるステーブルコイン」(1020日掲載予定)

■ヒューモニー特別連載3 ポストコロナのIT・未来予想図

写真/ 山岡浩巳
レイアウト/本間デザイン事務所

筆者

山岡浩巳(やまおか・ひろみ)

フューチャー株式会社取締役
フューチャー経済・金融研究所長

1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。