ニューノーマル時代の大学

ヒューモニー特別連載2

第2回 学生はリモート授業に賛成? 反対?

2020年07月17日 掲載

筆者 渡邊隆彦(わたなべ・たかひこ)  

学生はリモート授業をポジティブにとらえていた!? が、「大学の機能は知識付与だけではない」と渡邊隆彦准教授は指摘する。新連載第2回!

リモート授業初回出席率99%(履修登録者約160名)。従来の対面型授業をはるかに凌駕する高い出席率は大きな驚きでした。 このとき私がまず感じたのは、「学生たちは、朝ダルかったり家が遠かったりして、教室に来るのがよほど面倒だったんだ…(ちなみに私の授業はほとんどが1時限目で朝9時スタート)」ということ。そして、「学生たちも1カ月間放置されていたので、不安や孤独を感じ、『つながる』ことに飢えていたんだね」ということでした。

授業開始から約10日たった5月20日、ゼミナールの学生(3年生10名)に、リモート授業を1週間受けてみて感じた本音を聞きました。前回紹介したリモート授業へのポジティブコメントは、ざっと以下のとおりでした。

「通学時間がかからず、とくに朝が楽」

「オンデマンド再生型(YouTube型)授業の場合自分のペースで学習できる」

「ひとりのほうが授業に集中できる」

今回はネガティブコメントを見てみましょう。

【リモート授業に対する学生からのネガティブ評価】

①教員がしゃべる時の熱量や顔色、ニュアンスが伝わってこないので、授業のメリハリが見えづらく、大事なポイントがどこなのかがわからない。

②教室で同級生と一緒のときには、刺激も受け、楽しさも感じ、お互い質問をし合えたが、リモート授業では他の学生が一緒にいないのでつまらない。

 個人的には100%共感できます。①・②いずれも対面授業にしかない「ライブ感」の欠如を指摘しています。リモート授業では、いかんともしがたいところです。

③体を動かしてキャンパスに通うことがなくなり、ストレスが溜まる。

④リモート授業の構成が凝り過ぎていて画面遷移の回数が多く、スマホ受講ではついていけない。

⑤ウェブへの資料のアップロードを授業開始直前にする先生がいて困る。

⑥チャット機能を使って早く発言すると評価上加点される科目があるが、ネット接続の調子が悪いときにはうまくチャットできず、ストレスが溜まる。

⑦家にプリンタがないので資料をコンビニで印刷しなければならず、時間もコストもかかっている。

 ④から⑦は、教員サイドの授業運営の問題、あるいは学生サイドの情報通信インフラの問題なので、何とか対応できそうに思えます。なお、プリンタを持っていない学生が思ったより大勢いて少々驚きました。5月12日に私の担当する授業でアンケートをとったところ、回答者162名のうち、「プリンタで資料を印刷できる」と答えた者106名、「資料の印刷はできない」と答えた者56名であり、3分の1を超える学生がプリンタを持っていませんでした。 じつをいうと、リモート授業開始前の私は、「やはり学生は、従来型のライブでの対面授業のほうを好むだろう」と考えていました。裏返せば、ネガティブコメントはある程度事前に予想しており、事実そのとおりの回答がほとんどでした。

半面、予想し得なかったポジティブコメントが多く寄せられました。「対面型授業では、やってはいけないと思っても、どうしてもスマホをいじってしまっていた。ところが、リモート授業ではスマホ画面で受講することになり、スマホで遊べない。結果、授業に集中できる」というようなコメントです。

それらポジティブ評価とネガティブ評価を天秤にかけると、本当に私の想像通り、「ライブでの対面授業のほうを学生は好む」のでしょうか?

5月20日のゼミナール学生ヒアリングの最後に、「総合的に見て、対面授業よりリモート授業のほうが自分にとって良いのか悪いのか、二者択一で答えてください」と聞いてみました。結果は、リモートのほうが良い=6名、悪い=4名でした。私の「学生は対面を好む」説は揺らぎ始めます。 そこで5月26日に、大人数の授業(受講者のほとんどは2年生。3・4年生は少数)においてアンケートをとってみました。以下はその結果です。

(問)あなた自身にとって、大学の授業は以下のどちらの形態が良いですか(二者択一、回答者160名)。

・今学期のように、自宅で(キャンパスに行かずに)オンライン授業を受けるほうが良い……88名(55%

・昨年のように、キャンパスに通って授業を受けるほうが良い……72名(45% リモート授業のほうが良い、と感じる学生が多数派です。私としては、昨年まであれだけ精魂を込めていたライブ授業はこちらの独り善がりだったのかも、という忸怩たる思いもしますが、デジタルネイティブ世代の学生たちが、思ったよりもリモート授業に馴染んでいることには頼もしさを感じました。拍子抜けするような結果ではあるものの、リモート授業が過半の学生から支持されていることには、私たち大学教員はホッとしても良いでしょう。

いずれにせよ、このサンプル調査だけでリモート授業と対面授業の優劣を結論づけるつもりはありません。むしろ55%:45%という拮抗した結果は、「どちらのやり方でも構わない」ということ、すなわち若い学生たちはリモート授業であれ対面授業であれ、柔軟に対応できることを示しているのかもしれません。

後の回で詳しく述べる予定ですが、私は、大学の機能は、キャンパスや学生街といった「場」において学生の自己形成を促すさまざまな機能(の集合体)と、卒業証書=学歴を与える機能の2つから成っていると考えます。たとえば、「授業を通じての学生への知識付与」は前者の機能の一つです。

キャンパス封鎖で学生が自宅待機を強いられる環境下では、「自己形成を促す場としての大学の機能」は大きく毀損されます。それでも、人間同士の密な接触を避けるためには、大学の機能展開はキャンパス中心からウェブ中心にシフトする以外にありません。大学が学生に提供する「自己形成を促すさまざまな機能」は、その中のひとつである「授業での知識付与」にしばらくは特化せざるをえないでしょう。 大学教員の教育上の使命は、「伝える仕事」だと思います。デリバリー(伝達)のやり方は違えども、重要なのは伝えるコンテンツ(中身)です。リモート型と対面型、どちらの形式であろうが、各形式の特質に配慮しながら、充実した授業コンテンツを練り上げていかなければなりません。もっといえば、対面授業の単なる代替手段、という発想ではリモート授業は従来の対面型よりも劣ったものになってしまいます。新たな価値あるものとして、今までには実現できなかった素晴らしいものとして、リモート授業を展開しなければならないと思うのです。

そうはいっても、リモート授業の伝え方は、長年慣れ親しんだ対面型授業の伝え方とは大きく異なります。 大学教員はそれにいかに対応したのでしょうか? 聞くも涙語るも涙(?)なわれわれ大学教員の試行錯誤は、次回お話ししたいと思います。
(構成/鍋田吉郎)

*大学と一口に言っても、実験や実習が欠かせない工学系・医薬系や、実技が不可欠の体育系・芸術系、また人文科学系でもフィールドワークが必須の分野など、事情は様々です。本稿は、講義とゼミナールを主軸に置く人文科学系の教員から視たものとご理解ください(筆者より)。

連載第3回「リモート授業――送り手側の試行錯誤」(7月24日掲載予定)

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

■ヒューモニー特別連載2 ニューノーマル時代の大学

写真/ 渡邊隆彦
レイアウト/本間デザイン事務所

筆者

渡邊隆彦(わたなべ・たかひこ)

専修大学商学部 准教授

1986年東京大学工学部計数工学科卒、92年MIT経営大学院修了。三菱UFJ銀行(現)にてプロジェクトファイナンス、デリバティブ開発・トレーディング、金融制度改革、投資銀行戦略、シンジケートローン業務企画、IFRS移行プロジェクト等を担当後、三菱UFJフィナンシャル・グループ コンプライアンス統括部長、国際企画部部長を歴任。2013年4月より専修大学にて教鞭を執る。専門は国際金融、企業ガバナンス・コンプライアンス、金融規制・制度論、ファイナンス論、金融教育。国際通貨研究所客員研究員。