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フェイクニュースの研究

ヒューモニー特別連載5

第3回 フェイクニュース拡散手段として最も多い「身近な人との会話」

2022年06月17日 掲載

筆者 山口真一(やまぐち・しんいち)  

フェイクニュース拡散手段として最も多いのは、実は身近な人との直接の会話である。さらに、身近な人の話は信じやすいというバイアスも存在する。人類社会に普遍的な現象として存在していたフェイクニュースが、ネットだけの問題ではないことを明らかにする。

フェイクニュースというと、ネットのイメージが強い。例えば総務省の特集ページ「ネットの時代におけるデマやフェイクニュース等の不確かな情報」では、「ネット上には、人を混乱させるためにわざと流されたデマ情報も。身近な医療・健康情報、うわさ話やゴシップネタなどにも、間違った情報があります!」と書かれている。

これは間違っていない。ネットというのは誰もが自由に発信できる人類総メディア時代をもたらした。であれば当然、有益な情報が発信されることがあれば、誤った情報が発信されることもある。玉石混交の情報源であるので、情報の見極めは不可欠だ。

しかし、「ネットによってフェイクニュースが生まれた」「SNSの情報だけ気を付けていればよい」と考えると、フェイクニュースの威力を誤って測ってしまうことにつながる。結論から先に述べると、フェイクニュースの拡散手段として最も多いのは、実は「家族・友人・知人との直接の会話」であることが、筆者らの研究から明らかになった。

そもそもフェイクニュースというものは人間社会に普遍的なものである。それはデマや流言あるいは噂といったもので、人類はずっとこれらに振り回されてきたといってもよいだろう。フェイクニュースの起源を政治的なプロパガンダに求める場合は、紀元前のローマ帝国初代皇帝が政敵に勝つために虚偽情報を利用したことまで遡れるし、噂やデマに起源を求めれば、約10万年前の言語の起源にまで遡れる可能性がある

さらにメディア史という観点から考察すると、ネット登場以前の書物や新聞がフェイクニュースと無関係ではなかったことも指摘されている。例えば、第二次世界大戦時や1923年の関東大震災時の報道において、あいまいな情報が少なくなかったのは周知のとおりだ。

会話で伝わるフェイクニュースの恐ろしさ

フェイクニュースが人から人へ直接の会話で伝わっていった有名な事例として、1973年に豊川信用金庫で起こった取り付け騒ぎがある。これは、「豊川信用金庫が倒産する」といったデマが社会に広がり、大量の預貯金が引きだされて倒産危機を起こした事例である。

警察が捜査を行った結果、当該信用金庫に就職が決まった学生とその友人の会話に出た、「信用金庫は危ない」という発言が人々の口伝えで広まっていたことが原因だと分かっている。

そのように言われた方の学生(豊川信用金庫に就職が決まった学生)が親戚に「信用金庫は危ないのか」と尋ね、その親戚が他の親戚に尋ね、それが別の方に伝わり……という形で広まっていったとされる。その過程の中で、「豊川信用金庫は危ないのか?」から、「豊川信用金庫が危ないらしい」に変わっていった。なお、最初の学生の発言は、「信用金庫には強盗が入るため危険」という意味の冗談だったとされている。

似たような事例は佐賀銀行取り付け騒ぎなどでも見られているが、共通しているのが、伝達の過程で情報が変容していく点である。最初は事実確認のために周囲の人に尋ねていたにもかかわらず、人から人に伝わる中で「~らしい」という話に代わり、最終的には断定に代わるというのは良くあるのだ。

さらに遡れば、1923年の関東大震災の事例も有名だろう。震災発生直後、混乱に乗じて、朝鮮人が放火や井戸への毒の投げ込みを行っているというデマや流言が流れた。

そして、関東大震災はこの他にも思わぬ影響を及ぼしている。震災後には、震災によって生じた被害を救済するための震災手形が発行されたが、それが不良債権化し社会問題となった。

そのような中で、1927年に当時の大蔵大臣が「東京渡辺銀行が倒産した」(実際にはまだしていなかった)という発言を議会で発言し、それが報道されることで多くの預金者がお金をおろしに東京渡辺銀行に殺到した。ここから他の銀行の倒産の噂も人から人へ広まっていき、連鎖的に取り付け騒ぎが起きてしまった。これが昭和金融恐慌のきっかけになったといわれている。

フェイクニュースを拡散する手段、最も多いのは直接の会話

さて、前述したフェイクニュース拡散手段の話に戻ろう。筆者は2020年に、実際のフェイクニュース9件を使って、人々の拡散行動の実態について分析をした。そして、フェイクニュースを1つ以上知っていた人1,991名について、その後とった行動をまとめたのが図1である。

図1 フェイクニュースを知った後にとった拡散行動出典:筆者ほか(2020)「フェイクニュースの社会的影響と日本における実態

図1を見ると、突出して「友人・知人・家族に話した(直接)」(16.3%)が多いことが分かる。フェイクニュースの拡散においてはSNSが話題に上がることが多いが、実は拡散手段として最も多いのは身の回りの人への直接の会話だったのである。しかもこの結果は、別のフェイクニュースを使って行った別の2回の調査においても変わらなかったのである。

無論、SNSは1対多の発信であるのに対し、会話は1対1かせいぜい1対数人であるので、その拡散力に違いはある。しかし少なくとも、SNSだけ気を付けていれば良いというわけではないということがこの結果からいえるだろう。

さらにいえば、SNSで知ったことを直接の会話で身近な人に伝え、またその人がそれをSNSに投稿し……という相乗効果で、社会に急速に広がっていくのである。

親しい人からの情報は信じてしまう

それだけではない。実は、身近な人から聞いた情報は信じやすいというバイアスの存在も明らかになっている。図2は、それぞれの媒体の情報をどれくらい信頼するかを筆者らが調査した結果だ。点数が高いほど信頼していることを示す。

図2 各媒体で流れる情報・ニュースの信頼度(高いほど信頼している)出典:筆者ほか(2021)「フェイクニュースwithコロナ時代の情報環境と社会的対処

図2からは、「家族・友人・知り合いとの直接の会話」の信頼度が、テレビのウェブサイト・アプリ・ネット配信や、ラジオ、ネットニュースよりも高いことが分かる。つまり、拡散手段として多い直接の会話というものは、それだけ人々が信じやすい手段でもあるということだ。

実は40年前のコミュニケーションに関する研究でも、人が情報を信頼する過程において、その情報発信者の専門性よりも、情報発信者とどれだけ話したかの方が、影響力が強いことが示されている。実際、特に新型コロナウイルス関連のフェイクニュースは、家族や友人との直接の会話や、LINEグループなど知っている人からのメッセージでかなり広まったことが指摘されている。

加えて、筆者らが2022年に実施した別の研究では、政治やコロナワクチンといった話題について、家族・友人・知人との直接の会話を主たる情報源にしている場合、それらの分野のフェイクニュースに騙されやすいという傾向も明らかになっている。

「ネット上の情報にはフェイクニュースもある」というだけではなく、「情報は全て誤っているかもしれない」というのが正しいのである。たとえ家族・友人・知人から聞いた情報でも、安易に信じてはいけないといえるだろう。

『ソーシャルメディア解体全書』

連載第4回は6月21日掲載予定です。

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ホームページトップでもご案内していますが、6月19日(日)13時〜16時30分に2部制で中高大学生座談会(第1部)と連載陣討論会(第2部)『コロナは何を教えてくれたか』無料ウェビナーを開催します。第2部には山口准教授も登壇されます。登録制ですので、下記よりぜひお申し込み、ご視聴ください。

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■ヒューモニー特別連載5 フェイクニュースの研究

写真/ 山口真一
レイアウト/本間デザイン事務所

筆者

山口真一(やまぐち・しんいち)

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授

1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論、情報社会のビジネス等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award貢献賞、組織学会高宮賞、情報通信学会論文賞(2回)、電気通信普及財団賞、紀伊國屋じんぶん大賞を受賞。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)などがある。他に、東京大学客員連携研究員、早稲田大学ビジネススクール兼任講師、株式会社エコノミクスデザインシニアエコノミスト、日経新聞Think!エキスパート、日本リスクコミュニケーション協会理事、シエンプレ株式会社顧問、総務省・厚労省の検討会委員なども務める。